すべての花へそして君へ①


 ――カチッ。

 ……いたのは、もしかしたら気のせいだったのかも知れない。


「ねえ。『あ~ん』って言ってみて?」


 今、なんかスイッチが入った音が聞こえたんですけど。
 彼の顔をよくよく見てみると、ものすご~く意地悪な顔で笑っていた。さっきの嬉しそうな顔はどこへ行ったんだ。


「あ、あ~……ん?」

「もっとおねだりしてる感じで」


 めちゃくちゃ楽しそうなんですけど、一人。しかも、さっきの『お兄ちゃんとお呼び』って言ってたツバサくんと若干似てるんですけど。流石は兄弟……。


「ひっ、ひなたくん……」

「ん? なにかな、あおいちゃん」


 どうやらさっきのはいじわるスイッチだったみたいだ。完全にONになっていらっしゃる。ちゃん付きだから、多分そうだ。


「……そりゃ、“ちゃん”でも呼ばれること自体嬉しいけど」

「ん?」


 ヒナタくん、だいぶ言ってくれるようになったけど。


「……モミジさんの名前は普通に言うのに」

「え? モミジ?」


 ほら。キサちゃんもユズちゃんも、ヒナタくんは普通に言うのに。……わたしの名前も、これからいっぱい呼んでもらいたいな。


「……? どうかした?」

「ううん。どうもしないよ?」


 彼への想いを自覚する前から、しょっちゅうあった。綺麗じゃない、ちょっとだけ醜い気持ち。
 このモヤモヤを、嫉妬っていうんだと思う。流石のわたしでも、それはわかる。


「……ほんとに?」

「うんっ。ほんとほんと。大したことじゃないし、これから気長にお待ち申し上げている所存です」

「は?」


 でも、ずっと思ってた。別に、キサちゃんが悪いわけじゃないんだけど、ただわたしが勝手にいいなって。羨ましいなって思ってただけ。
 キサちゃんと一緒に歩いている時、いっつも笑顔だったなとか。腕を組んで歩いてたり、キサちゃんには触ってたりしてたから、……いいなって思ったりとか。


(キサちゃんが好きなのはキク先生だけど、……楽しそうなヒナタくん見るの、ちょっと嫌だったな)


 見るの嫌なくせに、なんでか見ちゃうんだけど。負の連鎖だ。嫉妬って恐ろしい。