すべての花へそして君へ①


「……ん?」


 まだ素直ver.の取扱説明書ができてないというのに、右手のフォークの先についた唐揚げサンが、わたしの唇にちゅーしてきた。


「ほら。食べて?」

「……ふあい」


 紙パックから運ばれたそれは、すぐにわたしのお口の中へ。そして、左斜め前には満足そうに笑うヒナタくん。


(そそそそ、早急に取扱説明書を完成させないと)


 そりゃ『黒効果バンザーイ!』って喜びたいところだけど、その度にわたしの心臓さんが大変なことになっている。そして、彼からもらう唐揚げサンが美味しすぎる。


(なのに今はもう涼しい顔してご飯に夢中だし……)


 食べても食べてもペースを落とさないヒナタくんは、きっとぽんぽこりんなお腹になってるんだろう。止めた方がいいのかな? それよりもちょっと見たい気もするけど。見ないけど。


(でも、……なんか、ちょっと悔しい)


 そしてテーブルの上に置いてあった、紙パックのニワトリさんと目が合う。


「ひっ、ひなたくん……!」

「え……?」


 彼のようなスキルは皆無だけれど! 「ニワトリさん、お一つ拝借」と断りを入れた紙パックにフォークをぶっ刺し、彼の口の前に……ちょっと離して差し出す。


(多分、オウリくんにならわたし、余裕でできると思うんです)


 そんな自信のあるちょっとしたことが、このお方の前だとどうして……。


「……恥ずかしいならしなきゃいいのに」

「だ、だって……」


 だって、わたしばっかりドキドキして、悔しかったんだもん。ヒナタくんばっかり、……ズルい。
 でも、やっぱりヒナタくんには勝てそうになかった。ククク……と肩を震わせながら、彼は小さく笑っている。


「……なに? そんなにおいしかったの?」


 だから意地悪な声にはもう、正直になることにした。


「うん。ものすごく……おいしかった、から」

「……」


 コクコクと頷く。いいよもうっ。ヒナタくんにもドキドキしてもらう、っていうのが当初の目的だったけど、この際この唐揚げサンを食べてもらうに変更してもっ。一気に目的のレベルが下がったけど下げたけど。
 ……でも、どうやらその目的も達成できるか危ういようだ。


「た、食べない……? お腹、いっぱい……?」


 肘を突き、右手で口を覆っているヒナタくんは、唐揚げサンに見向きもしない。


「……そんなに、食べて欲しいの」


 でも、取り敢えず返事は返ってきたから、ここも素直に答える。


「……うんっ。ヒナタくんからもらった唐揚げ、すっごい美味しかったから」


 だから、ヒナタくんにも食べてもらいたい。当初の目的とは違うけど。コクコクと頷く。こっち見てないけど。


「ふーん」


「ふーん」ってあなた……。
 でも、こちらに帰ってきた顔は、少しだけ頬を赤くして、嬉しそうに口角を上げてい――