「……ん?」
まだ素直ver.の取扱説明書ができてないというのに、右手のフォークの先についた唐揚げサンが、わたしの唇にちゅーしてきた。
「ほら。食べて?」
「……ふあい」
紙パックから運ばれたそれは、すぐにわたしのお口の中へ。そして、左斜め前には満足そうに笑うヒナタくん。
(そそそそ、早急に取扱説明書を完成させないと)
そりゃ『黒効果バンザーイ!』って喜びたいところだけど、その度にわたしの心臓さんが大変なことになっている。そして、彼からもらう唐揚げサンが美味しすぎる。
(なのに今はもう涼しい顔してご飯に夢中だし……)
食べても食べてもペースを落とさないヒナタくんは、きっとぽんぽこりんなお腹になってるんだろう。止めた方がいいのかな? それよりもちょっと見たい気もするけど。見ないけど。
(でも、……なんか、ちょっと悔しい)
そしてテーブルの上に置いてあった、紙パックのニワトリさんと目が合う。
「ひっ、ひなたくん……!」
「え……?」
彼のようなスキルは皆無だけれど! 「ニワトリさん、お一つ拝借」と断りを入れた紙パックにフォークをぶっ刺し、彼の口の前に……ちょっと離して差し出す。
(多分、オウリくんにならわたし、余裕でできると思うんです)
そんな自信のあるちょっとしたことが、このお方の前だとどうして……。
「……恥ずかしいならしなきゃいいのに」
「だ、だって……」
だって、わたしばっかりドキドキして、悔しかったんだもん。ヒナタくんばっかり、……ズルい。
でも、やっぱりヒナタくんには勝てそうになかった。ククク……と肩を震わせながら、彼は小さく笑っている。
「……なに? そんなにおいしかったの?」
だから意地悪な声にはもう、正直になることにした。
「うん。ものすごく……おいしかった、から」
「……」
コクコクと頷く。いいよもうっ。ヒナタくんにもドキドキしてもらう、っていうのが当初の目的だったけど、この際この唐揚げサンを食べてもらうに変更してもっ。一気に目的のレベルが下がったけど下げたけど。
……でも、どうやらその目的も達成できるか危ういようだ。
「た、食べない……? お腹、いっぱい……?」
肘を突き、右手で口を覆っているヒナタくんは、唐揚げサンに見向きもしない。
「……そんなに、食べて欲しいの」
でも、取り敢えず返事は返ってきたから、ここも素直に答える。
「……うんっ。ヒナタくんからもらった唐揚げ、すっごい美味しかったから」
だから、ヒナタくんにも食べてもらいたい。当初の目的とは違うけど。コクコクと頷く。こっち見てないけど。
「ふーん」
「ふーん」ってあなた……。
でも、こちらに帰ってきた顔は、少しだけ頬を赤くして、嬉しそうに口角を上げてい――



