『流石にハッキリとはわからないわ。これから取り調べをするから、今は私の勝手な憶測になってしまうけど……』
――道明寺でなかった頃は、あなたの腕試しだったんじゃないかしら。
つまりは、わたし自身が使える人間かどうか。幅広い範囲での策を練られるかどうか、試していたのではないかと言われた。確かに、みんなの家はバラバラの系統だから、先生の考えも一理あるだろう。そう言われて納得することにした。
「まだ、自分は傷つけることしかできないって、思ってないよね」
「え?」
自然と落ちてしまっていた視線を上げると、鋭い視線とかち合う。でも、右手にはフォークが握られていたから、ちょっとかわいい。
「ううん。思ってない。思ってないよ?」
小さく笑いながらそう答える。みんなからのありがとうが、何よりの証拠なんだから。
「違う。そうじゃない」
「え?」
一気に水を飲み干そうとしているヒナタくんの、ゴクゴクと動くその喉元に釘付けになりながら。こればっかりはよくわからなかったので首を傾げる。
「はあ。……今のことを、言ったんじゃない」
「詳しくお願いします」
わからないのが悔しくて眉間に皺を寄せると、そこに右手の人差し指が伸びてきてぐりぐりと回された。
「はう……!」
「あの頃だって、あんたは傷つけることしかできなかったわけじゃない」
「え」
「何回も言ってる。お礼だって言った。……わかった?」
モノクロだった彼の世界に、わたしが色をつけたんだと。
だから彼は言ったんだ。出会ってくれて、ありがとう――と。
「……うんっ。わかってる。十分すぎるほど」
「……わかってんなら、いい」
実際、そんなことを自分がしたわけではないし、どちらかというと、わたしが彼に色をつけてもらったと思ってる。だからこれは、お互い様だ。
またガツガツ食べるはじめる彼に、小さく笑みを漏らした。
願いを叶える云々の話よりも、彼にあの時、見つけてもらえていなかったらと思うだけでぞっとする。そして、本当によかったと思う。
彼女……ううん、彼に。声を掛けてもらえて。絵本を渡して。
……彼を、好きになることができて。



