すべての花へそして君へ①


 見たこともないような顔をして笑うもんだから……そんな顔をして欲しくなんかなくて、思い切りほっぺたでも引っ張ってやろうとしただけだ。まあ、手を伸ばしたのは無意識だったけど。


「じゃあ止めに入って正解だったね」

「おい。どういう意味だ」

「あんたじゃないから、ツバサのほっぺたは伸ばしても元に戻らないってこと」

「わたしだって元に戻らないよ!」

「あ。そうなんだ。気を付けるね」

「全然気を付ける気なさげなんだけど……」


 はあ。と小さくため息を落としていると、左側の髪に違和感。何かと思ったら、ヒナタくんが横髪をひと房掬っていて……。
 そこへ、唇を落とした。


「ひ、な」

「じゃあ話を元に戻すけど」


 絶対に、目の前の彼はこんなことしない。
 彼は()()()()、わたしたちの様子を窺っていたんだろう。


「振ったところで諦めるような奴らじゃないってこと」

「……え」

「だから、みんながみんなツバサみたいになるわけじゃない。あいつの場合は、また違う立場だったら変わってたと思う」

「……そ、か」

「別に返事を伝えたところで、みんなあんたを好きなのに変わりはないよ」

「……そうかな」

「そう。なにも、絶交してくれって言うわけじゃないんだから。振ったところで誰も友達やめようとはしないよ」


 だから、そんなに落ち込むなと。鼻を抓んだヒナタくんの笑顔はとても無邪気で。気持ちが少し、晴れた気がした。


「返事してる最中に唇奪われでもしたら承知しないから」

「しょ、承知した……」

「え。ツバサに奪われてないよね。オレだってお預け食らってるのに」

「いや、ツバサくんには抱き締められただけで……」

「……ガードが緩い」

「うえっ!? で、でもあの時は……」

「わかってる。オレだってまだ『彼氏有力候補さん』だから何も口出しできないし」

「いえ。既にいろいろ助けていただいているので……」

「助けとかじゃなくて、オレがしたいようにしてるだけだけどね」


 ようやくヒナタくんも無事見つかったことだし、会場に戻って揉みくちゃにされてこようか、と腰を上げたんだけど。


「あ。忘れてた」


 そう言ってひとつ。ほっぺに落として。


「オレも一緒だよ」


 軽く音を立てて離れていった彼は、ニッコリ笑顔を残してさっさと歩き始めたけれど……。


「な、なにが!?」


 いきなりのキスに。かわいい無邪気な笑顔に。あまりにもあり過ぎた時間差に。彼が何に対して『オレも一緒』と言ったのか、ちょっとよくわからなかった。不器用さんも程々にして欲しいものだ。