見たこともないような顔をして笑うもんだから……そんな顔をして欲しくなんかなくて、思い切りほっぺたでも引っ張ってやろうとしただけだ。まあ、手を伸ばしたのは無意識だったけど。
「じゃあ止めに入って正解だったね」
「おい。どういう意味だ」
「あんたじゃないから、ツバサのほっぺたは伸ばしても元に戻らないってこと」
「わたしだって元に戻らないよ!」
「あ。そうなんだ。気を付けるね」
「全然気を付ける気なさげなんだけど……」
はあ。と小さくため息を落としていると、左側の髪に違和感。何かと思ったら、ヒナタくんが横髪をひと房掬っていて……。
そこへ、唇を落とした。
「ひ、な」
「じゃあ話を元に戻すけど」
絶対に、目の前の彼はこんなことしない。
彼はいつから、わたしたちの様子を窺っていたんだろう。
「振ったところで諦めるような奴らじゃないってこと」
「……え」
「だから、みんながみんなツバサみたいになるわけじゃない。あいつの場合は、また違う立場だったら変わってたと思う」
「……そ、か」
「別に返事を伝えたところで、みんなあんたを好きなのに変わりはないよ」
「……そうかな」
「そう。なにも、絶交してくれって言うわけじゃないんだから。振ったところで誰も友達やめようとはしないよ」
だから、そんなに落ち込むなと。鼻を抓んだヒナタくんの笑顔はとても無邪気で。気持ちが少し、晴れた気がした。
「返事してる最中に唇奪われでもしたら承知しないから」
「しょ、承知した……」
「え。ツバサに奪われてないよね。オレだってお預け食らってるのに」
「いや、ツバサくんには抱き締められただけで……」
「……ガードが緩い」
「うえっ!? で、でもあの時は……」
「わかってる。オレだってまだ『彼氏有力候補さん』だから何も口出しできないし」
「いえ。既にいろいろ助けていただいているので……」
「助けとかじゃなくて、オレがしたいようにしてるだけだけどね」
ようやくヒナタくんも無事見つかったことだし、会場に戻って揉みくちゃにされてこようか、と腰を上げたんだけど。
「あ。忘れてた」
そう言ってひとつ。ほっぺに落として。
「オレも一緒だよ」
軽く音を立てて離れていった彼は、ニッコリ笑顔を残してさっさと歩き始めたけれど……。
「な、なにが!?」
いきなりのキスに。かわいい無邪気な笑顔に。あまりにもあり過ぎた時間差に。彼が何に対して『オレも一緒』と言ったのか、ちょっとよくわからなかった。不器用さんも程々にして欲しいものだ。



