すべての花へそして君へ①


 ――オレは今、『これから』を始めるために黒にしたんだ。


「……言ったじゃん。置いていかれるって」

「わたしは、置いていこうなんて……」

「じゃあ、言い方を変えるけど」


 彼は額をそっと外して、わたしの手を自分の頬につけた。握ってくれた手も、触れたほっぺたも、向けられた瞳も……熱くて。その熱が、どんどん鼓動を速めた。


「あおいは今、何をしようとして苦しんだの」

「……え」

「オレと『これから』をはじめようとしたからじゃないの」

「……ひな」

「違う? オレの自惚れ?」

「……ちがわない」


 わたしにとって、みんなは大事な人たちだ。大好きなのに、変わりはない。……でも、そのままじゃみんなもヒナタくんも、わたしも進めないと思ったから。


「ごめん。思い出させた」

「えっ」

「せっかく話逸らしてあげたのにね。ごめんごめん。あとでツバサはオレがしばいておくから」


 申し訳なさそうに、わたしの頬へと手を伸ばしたヒナタくんには、きっと冗談で言ったんだろうけど一応「ダメ」と言っておく。


「……正直、もうオレはやめて欲しいよ」

「え? な、んで……」

「そういう意味で言ったんじゃない。……しんどそうなあおいをオレが見たくないから、オレがみんなにハッキリ言ってやりたいって言ってるの」

「……!」

「みんなももうわかってるんだから、オレはそれでいいと思う。そうすれば手っ取り早く予約が受け取れるわけだし」

「ひなたくん……」


 最後はちょっと、ガクッとなったけど、彼が冗談で言ってないことくらいはわかった。
 でも、それじゃあダメなんだ。


「ひなたくん。わたしは……」


 わたしはちゃんと、みんなに言いたい言葉があるから。


「わかってる。今のはオレの希望だから。そうじゃなくて、今はオレが黒にした話でしょ?」


 やさしく笑ったヒナタくんは、ただこう言った。「ただ、待ってるだけは嫌だったんだ」と。


「でもヒナタくん、その髪はただ待ってるだけだったんだよね?」

「人の揚げ足を取らないでください」

「ははっ。ごめんなひゃーい」


 頬を抓む指がやさしくて……嬉しくて。飛びついてしまいそうになるのを、ちょっと堪えた。


「でもね? やっぱりヒナタくん変わったよ」


 見た目は、今までもかっこよかったけど、それとはまた違う雰囲気でとってもかっこよくなった。でも、中身も変わったと思う。


「ちょっと壊れてたし」

「そんな変わり方したくない」

「ちょっとかわいかったし」

「男はかわいいって言われても嬉しくない」

「ちょっと甘えたさんだったし」

「まあ素だったからね」

「え」

「それで? どうしてツバサの顔に手を伸ばしたの?」

「話変えるの下手だね」

「うるさい」

「照れたんだ」

「別に照れてない。ほんとのことだし」

「そ、そうですか……」

「それで?」

「ん? ……ああ、ツバサくんは」