「まあ命の危険に晒されれば、流石のあんたでも慌てるでしょ」
「……え」
再びぼそりと零した声に顔を上げると、『ねえ?』とでも言いたげな笑顔が、彼の顔に貼り付いていた。
「……あ、慌てるってそういう――」
「今日のご飯何かなー。アキくんのことだから、特大のケーキとか注文してそうだなー」
「え!? ちょっと、ヒナタくん!」
先程のことがなかったかのように、再びスタスタと歩き出した。もう、最初から彼に振り回されっぱなしだ。
(でも、多分違う意味だと思ったんだけど……)
そんなことを思いながら、確認……ってほどでもないんだけど。
「……」
「――!」
彼の方を見上げたら、バチッと目が合った。
ひと呼吸して、彼はすぐに正面へと顔を向けてしまったけれど……。
(わたしだって、君を困らせたいわけないじゃん)
すっかり眉を下げた彼は、困ったように笑っていた。
(はじめから、上手くいくなんて思ってたわけじゃないんだけど……)
何かが極端に変わったわけじゃない。ただ、こうして想いが通じ合って、関係が少し変わっただけ。気持ちが、想いが、わたし自身が、変わったわけじゃない。
(さっきだって、今だって。 ヒナタくんがやさしいことくらい、わたしはちゃんとわかってる)
ただ、わたしが少し驚き過ぎただけ。だからその時は、気付けなかっただけ。
手から伝わってきたわたしの動揺に、すぐ話題を変えてくれたのは彼のやさしさだ。それを今はもう、ちゃんとわかってる。
「ん? ……どうしたの」
相変わらず言葉が足りなくて。不器用で やさしくて 意地悪で。
「ヒナタくんは……」
彼もまた、想いが通じ合ったからと言って何かが極端に変わったわけじゃないんだ。
「ヒナタくんは、ズルい」
――わたしと、一緒だ。



