「もおー……」
って唸りながら壁と『こんにちは』していた。
……どうしたヒナタくん。どうしよう。ものすごくかわいいんだけど。
「……恥ずかしげもなく、よく何回も言えるよね」
「そんな、わたしに羞恥心がないみたいに言わないでよ……」
「ある意味羞恥の塊だよね」
「え。そ、存在自体が恥ずかしいのか、わたしは……」
……だったら本当に警察行きだったんじゃ。変態の域を超えてるよね、多分……。
「言われる身にもなってよ……」
「す、すみません……」
「別に悪いことしてないんだから謝んなよ……」
「え。す、すみません」
「謝んなよ、嬉しかったんだから……」
「ごっ、ごめ、……へ?」
コツンコツンと、何度も軽く頭を壁に打ち付けていらっしゃるから慌ててその間に手を入れたけど……。
「……照れるじゃん」
「……ごめんなさい」
ちょっと壊れたヒナタくんの照れが移ったのか、顔が熱くなった。
「髪黒くしたからって、見た目変わっただけじゃん」
「そ、そうですね……」
「どうせ、すごいとか思ってたんでしょそうなんでしょ」
「は、はい。その通りで……」
「何がすごいの。そりゃ染めてカットしてセットしたカオルはすごいかも知れないけどオレただしてもらってただけじゃんバカじゃん」
「へえ。仰る通りで……」
今度は間に入れたわたしの手の甲にコツコツ額を当ててくる。……やっぱりヒナタくん、黒くしてからいろいろ変わったって。
「……そんなすぐ、変わるわけないでしょ」
「え。声漏れてた……?」
「……なに。なに言ったの」
「……変わったなって」
「大体予想ついたからちょっと落ち着く」
「是非そうしてください」
手の甲に額を置いてひと息。吐いたヒナタくんは、じっとこちらを見つめてきた。
「確かに、変わろうとはした」
真っ直ぐな言葉に視線に、どくんと鼓動が鳴る。
「別に、オレンジが嫌いなわけじゃない。寧ろ好きだし」
――ただ、変わりたかったんだ、と。
何においても偽ってきて、オレンジはそういった色だったわけじゃないのに、自分がそれを作ってしまったからと。
「そういう意味で黒に戻したのもあるけど、……ただ、置いて行かれるような気がしたから」
「え?」
誰に――……なんて、流石に聞かなくてもわかったけれど。
「……どうして?」
「ん?」
「どうしてわたしが、……ヒナタくんを置いていくの?」
だって、わたしの方がヒナタくんに置いていかれたと思ったのに。黒になって、そりゃ見た目だけだけど、今までと今からをきっちり線引いてすごいなって。
……だってわたしは、今まで自分がしてきたことを割り切るなんてこと、これから幾ら時間が過ぎたってできないから。
「……なんか勘違いしてない?」
「え?」
「確かにオレは、黒にして念願のあんた救出に幕を下ろしたけど、先に進んだわけじゃない」



