すべての花へそして君へ①


「ど、どうなすった……?」

「どうもなすってない」


 そう返ってくる辺り重傷だと思いますけどね。取り敢えずわたしもしゃがんでみる。


「……オレのツボをとことん突いてくる……」

「ヒナタくん?」

「ド直球にデッドボール食らわされた気分」

「ええ!?」

「……それが嬉しいとか。こいつの属性がオレを侵食していっている……」

「ど、どうしたらいい? 手当てする?」

「……手当て、して欲しいかも知れない」

「わ、わかった。ど、どこにデッドボールを受けたんだ……?」


 というかわたしは、君のどこにド直球のデッドボールを投げたんだ……?


「……」

(あれ。返事が返ってこない)


 少し様子を見ていたけれど、ただヒナタくんは繋いでる手を握っているだけだった。むぎゅむぎゅ……って。かわいいなこん畜生。
 ふと視線を上げると、そこにはまだ見慣れていない黒色があって。……そこへと自然に手が伸びた。


「……」


 髪色を変えただけなのに、どうしてこうもかっこいいんだろう。
 ただでさえ、普段から大人っぽいのに。黒にしただけで色気も増すってか。わたし元から黒なんですけども。


(……でも、とってもよく似合ってる)


 オレンジもよく似合っていて好きだった。それに、わたしだけの太陽の証だったから。
 でも、どうしていきなり黒に戻したんだろう。


「……染めたばっかだから、匂いが手に移るよ」

「もし移っても気にしないよ」

「……そう」


 ふわふわさらさらの髪は、少しだけワックスが付いているようだった。髪型もいつもと少し変わってたから、動揺したのかも。
 折角セットしてあるからな。勿体ないけど、頭を撫でるのはここまでにしておこう。


「……いなかったのは、染めてたから?」

「ん? うん。カオル捕まえてさ、カエデさんに買ってきたもらったヤツで染めてもらってた。広い洗面台がある部屋貸し切って」


 ということはカエデさん。お使いはヒナタくんの、だったんですね。いつもお世話になってます。


(あれ? でもそれだったらあの美味しそうな匂いは……?)

「黒、嫌い?」

「え?」


 握られていた右手は、いつしか彼の手悪さ道具になっていた。両手で、ぷにぷにと触って遊んでいる。……ちょっとくすぐったい。


「……嫌いじゃないよ?」

「……そっか」


 嬉しそうな声と、楽しそうな指先。ちょっと子どもっぽくって、黒色になって大人っぽくなったはずなのに。そのズレが、やっぱりかわいかった。


「どうして染めたの?」

「え? ……やっぱり染めない方が好きだったんじゃ」

「こらネガ日向くん。ネガさんはどこかほっぽり投げてください」

「……さっきも言ったけど、もうあんたに見つけてもらったからいいかなって思って」

「……そっか」