そう零したヒナタくんの視線は、何かを考えているか、空中の一点を見つめていた。
「……ひなた、くん?」
「……言ったじゃん? 我慢してるって。まあもしかしたら、応援してくれる唯一の味方かも知れないけど」
「え。ゆ、唯一……」
今度はスッと視線を下ろし、そのままゆっくりと瞼を下ろす。
「……ただ、あいつもあんたが好きだからね。本気で」
そう言われて、今度はわたしが俯く番だった。けれど、そうなりかけたわたしの顔は、いつの間にかこちらを向いていた彼の手が添えられ、やさしく止められた。
ゆっくりと視線を上げると、大丈夫と、やさしく微笑んでくれている彼と目が合う。たったそれだけで、幾分か苦しさが落ち着いた気がした。
「あとはツバサの問題。本気で言ってあげたんなら、あんたの口から出た言葉に間違いはない。それだけは自信持って?」
「……ほんと?」
「うん。絶対間違いじゃない。向こうがそれをどう受け取ろうが、あんたの代わりなんかいないんだから」
「……!!!!」
……どうして彼は。わたしが思っていたそんなところまでわかってしまうんだろう……。
「当たりでしょ」
「……うん」
「なんでわかるかって?」
「うん」
「わかりやすいからね」
「え」
「言ったじゃん」
「え……?」
そっと持ち上げられたのは繋いでいる右手。ふにふにと、やさしく握ってくれた手からはなんでか『ばーか』って言われてるみたいだった。……悔しいが、流石マジシャン殿だ。
「ツバサの場合は、気持ちがまだ残ってるくせに見守る側へ行こうとしたから、自分で自分の首閉めただけ」
「え……?」
「まあ、最初がツバサだったんならあとは多分大丈夫だよ。……いや、ある意味大変かも知れないけど」
「ど……、どういうことっすか」
未だに状況が飲み込めずにいると、目の前の方は、なんでわかんないのかと、怪訝な顔をしながら首を傾げてる。
「……オレから言うのもいろいろ複雑なんですけど、あおいさん」
「え。……そうなんですか? ヒナタさん」
「……まあ、敵は多いわけですよ、あおいさん」
「え? でも、わたしはヒナタくんがいいもん」
って言ったら、一瞬にしてヒナタくんが目の前から消えた。
えっ!? まさか今手品使ったんですか?! 流石マジシャン殿!!
(……って、ちょっと本気で思っちゃったよ)
実際のところは、ヒナタくんがしゃがんだだけなんですけど。こちらを向いて、体半分は壁に体重をかけている。
「はああああ」
……えらいデカいため息ですね。



