すべての花へそして君へ①


 そう零したヒナタくんの視線は、何かを考えているか、空中の一点を見つめていた。


「……ひなた、くん?」

「……言ったじゃん? 我慢してるって。まあもしかしたら、応援してくれる唯一の味方かも知れないけど」

「え。ゆ、唯一……」


 今度はスッと視線を下ろし、そのままゆっくりと瞼を下ろす。


「……ただ、あいつもあんたが好きだからね。本気で」


 そう言われて、今度はわたしが俯く番だった。けれど、そうなりかけたわたしの顔は、いつの間にかこちらを向いていた彼の手が添えられ、やさしく止められた。
 ゆっくりと視線を上げると、大丈夫と、やさしく微笑んでくれている彼と目が合う。たったそれだけで、幾分か苦しさが落ち着いた気がした。


「あとはツバサの問題。本気で言ってあげたんなら、あんたの口から出た言葉に間違いはない。それだけは自信持って?」

「……ほんと?」

「うん。絶対間違いじゃない。向こうがそれをどう受け取ろうが、あんたの代わりなんかいないんだから」

「……!!!!」


 ……どうして彼は。わたしが思っていたそんなところまでわかってしまうんだろう……。


「当たりでしょ」

「……うん」

「なんでわかるかって?」

「うん」

「わかりやすいからね」

「え」

「言ったじゃん」

「え……?」


 そっと持ち上げられたのは繋いでいる右手。ふにふにと、やさしく握ってくれた手からはなんでか『ばーか』って言われてるみたいだった。……悔しいが、流石マジシャン殿だ。


「ツバサの場合は、気持ちがまだ残ってるくせに見守る側へ行こうとしたから、自分で自分の首閉めただけ」

「え……?」

「まあ、最初がツバサだったんならあとは多分大丈夫だよ。……いや、ある意味大変かも知れないけど」

「ど……、どういうことっすか」


 未だに状況が飲み込めずにいると、目の前の方は、なんでわかんないのかと、怪訝な顔をしながら首を傾げてる。


「……オレから言うのもいろいろ複雑なんですけど、あおいさん」

「え。……そうなんですか? ヒナタさん」

「……まあ、敵は多いわけですよ、あおいさん」

「え? でも、わたしはヒナタくんがいいもん」


 って言ったら、一瞬にしてヒナタくんが目の前から消えた。
 えっ!? まさか今手品使ったんですか?! 流石マジシャン殿!!


(……って、ちょっと本気で思っちゃったよ)


 実際のところは、ヒナタくんがしゃがんだだけなんですけど。こちらを向いて、体半分は壁に体重をかけている。


「はああああ」


 ……えらいデカいため息ですね。