「その代わりに、たくさん『好きだった』って、言ってもらってたの」
きちんとした返事は、言えなかった。寂しそうな彼に。切ない声を漏らした彼に。……言えるわけがない。
「だから、ちゃんとした返事は言わなかったんだけど、そう言ってくれて、好きになってくれてありがとねって、そう言ったの」
「……そっか」
頬に触れていた手が、いつしか頭を撫でてくれていた。それが、ぎこちなくて……。すごく……あったかくて。
「……っ、そしたらつばさくん。みたことないかお。したから……」
――不安だった。
クシャッと笑った笑顔も、やっぱりつらそうだったから。
(……っ、泣くなっ)
わたしもよっぽど、ツバサくんの方がしんどいに決まってる。泣く資格なんてない。わたしが苦しんでることだって、おかしいんだからっ。
「どう……、言ってあげたらよかったのかな。わたしは……っ」
わたしじゃない、違う人だったら。彼にあんな顔をさせない言葉を、かけることができたんだろうか。
わたしはツバサくんを、苦しめたかったわけじゃないのに。
「まあ、ツバサじゃないからわかんないけど」
不安で。怖くて。情けなくて。無意識に力の入った手を、やさしく握り返してくれたヒナタくんは、何度も何度も頭を撫でてくれていた。
「どんな答えでもキツいよ。自分を選んだわけじゃないんだから」
そうしてくれながら、落ちてきた言葉は真っ直ぐで。濁さないでいてくれた言葉が、今は有り難かった。
でも、次に落ちてきたのは、どでかいため息。
「はあ……。なんでツバサ最初にしたの。相手悪すぎ」
「え……!?」
しかも次は、そんなことを濁さずハッキリ言うもんだから、驚いて俯いてた視線も一気に上がる。
「……やっとこっち向いた」
「……!」
けれどそれは、どうやら彼の一種の誘導作戦だったみたいで。恥ずかしくて見慣れなくて。今でも彼の方を、向かないように向かないようにしてたのはやっぱりバレていたらしく……。
「言ったでしょ? 正直必要ないって。来られるのも嫌だって。……つらい思いを、わざわざしに行くの? って」
視線が合っただけで、ふっと一瞬嬉しそうに目を細めた彼の眉尻は、今はもうすっかり下がっていた。
「それにツバサは、オレの兄貴だから……」
「え……?」



