「そういえば修学旅行の時、なんでまだ手繋いでたかったの? もう一回? だっけ。そう言ってたけど」
またそうやって、話題を変えてくれるやさしさに胸が鳴るっていうのに。小さく「オレがしたかったことしたけどさ」とか言われたら余計心臓さんが働くでしょうっ? わたしの心臓を壊す気ですか、あなたはっ。
「えっと。まだ、どうしてヒナタくんの時はすごい緊張するんだろうとか、嬉しいんだろうとか、わかんなくて……」
「うん」
「なんて言うんだろう。……確認? みたいな」
「そ、そう……」
「うん。……やっぱりね、離して欲しくないなって、思ったんだよね」
「……そう」
ぎゅっと力を入れられた手に応えるように。わたしもそっと、手に力を入れた。
「さっきさ、なんでツバサと抱き合ってたの」
「浮気じゃないよ!?」
「わかってるよ、それくらい。そんな雰囲気じゃなかったから、出ていこうか迷ったし」
「そ、そっか……。ごめんなさい」
悪いことはしてないんだけど素直にそう謝る。すると、上から小さく息をついた音が聞こえたかと思ったら、彼は半歩こちら側に寄って少しだけ声のボリュームを落とした。
「それで? どうしたの」
こういうことを、普通人に話すのってダメなんじゃないかなって思うんだけど……。
「……返事をね。言おうと思ったの」
「……そう」
でも、このままにしておく方がダメだと思った。それに、わたしの中に正解があるわけじゃない。誰かに聞いてもらわないと、どうすればいいかなんてことわからない。まあそもそも、彼に黙っておくこと自体無理な話なんだけど。
「初めはヒナタくんを捜してたんだけど、いなかったからツバサくんに聞いてて。……言おうと、思ったんだけど」
「諦めない、って言われた?」
「……好きだったって、言われたの」
その時のことを思い出して、苦しくなる。ツバサくんの声を、表情を思い出すだけで。
そんなわたしを見て、彼は少し覗き込むように体を曲げた。
「……大丈夫?」
「……わたしはね。だいじょうぶ、だよ」
思ったよりも、弱々しい声が出た。今にも倒れそうだとでも思ったのか、不安げにヒナタくんが頬に手を伸ばしてくる。
「顔色、ちょっと悪いね」
「……はは。流石」
ほんと。……わたしのこと、よくわかってる。するつもりなんかさらさらないけど、彼に隠し事なんて、絶対にできないな。
「なに? どうしたの。ツバサの顔に手、伸ばそうとしてたのと関係ある?」
「……返事は、聞くの嫌だからって言われたの。ごめんって」
ズルくてごめん、と。全然ズルくなんてないのに申し訳なさそうに言って……。



