すべての花へそして君へ①


「そういえば修学旅行の時、なんでまだ手繋いでたかったの? もう一回? だっけ。そう言ってたけど」


 またそうやって、話題を変えてくれるやさしさに胸が鳴るっていうのに。小さく「オレがしたかったことしたけどさ」とか言われたら余計心臓さんが働くでしょうっ? わたしの心臓を壊す気ですか、あなたはっ。


「えっと。まだ、どうしてヒナタくんの時はすごい緊張するんだろうとか、嬉しいんだろうとか、わかんなくて……」

「うん」

「なんて言うんだろう。……確認? みたいな」

「そ、そう……」

「うん。……やっぱりね、離して欲しくないなって、思ったんだよね」

「……そう」


 ぎゅっと力を入れられた手に応えるように。わたしもそっと、手に力を入れた。


「さっきさ、なんでツバサと抱き合ってたの」

「浮気じゃないよ!?」

「わかってるよ、それくらい。そんな雰囲気じゃなかったから、出ていこうか迷ったし」

「そ、そっか……。ごめんなさい」


 悪いことはしてないんだけど素直にそう謝る。すると、上から小さく息をついた音が聞こえたかと思ったら、彼は半歩こちら側に寄って少しだけ声のボリュームを落とした。


「それで? どうしたの」


 こういうことを、普通人に話すのってダメなんじゃないかなって思うんだけど……。


「……返事をね。言おうと思ったの」

「……そう」


 でも、このままにしておく方がダメだと思った。それに、わたしの中に正解があるわけじゃない。誰かに聞いてもらわないと、どうすればいいかなんてことわからない。まあそもそも、彼に黙っておくこと自体無理な話なんだけど。


「初めはヒナタくんを捜してたんだけど、いなかったからツバサくんに聞いてて。……言おうと、思ったんだけど」

「諦めない、って言われた?」

「……好きだったって、言われたの」


 その時のことを思い出して、苦しくなる。ツバサくんの声を、表情を思い出すだけで。
 そんなわたしを見て、彼は少し覗き込むように体を曲げた。


「……大丈夫?」

「……わたしはね。だいじょうぶ、だよ」


 思ったよりも、弱々しい声が出た。今にも倒れそうだとでも思ったのか、不安げにヒナタくんが頬に手を伸ばしてくる。


「顔色、ちょっと悪いね」

「……はは。流石」


 ほんと。……わたしのこと、よくわかってる。するつもりなんかさらさらないけど、彼に隠し事なんて、絶対にできないな。


「なに? どうしたの。ツバサの顔に手、伸ばそうとしてたのと関係ある?」

「……返事は、聞くの嫌だからって言われたの。ごめんって」


 ズルくてごめん、と。全然ズルくなんてないのに申し訳なさそうに言って……。