「いっ、いっひゃうのっ!? ふははふんっ」
「……は?」
多分、俺を呼び止めた声が聞こえた。ていうか、『ふははふん』って、なんだ。そう思って振り返ったけど。
「ふははふうーんっ!!!!」
「ふははふ~ん」
(……何やってんだ、あいつら)
葵の頭に顎置いた日向が、ほっぺたをこれでもかと言うほど伸ばして遊んでいた。……いや、落ちる。美味しいもの食う以前の問題で、そこまで伸ばしたら流石の葵でもほっぺた落とすぞ。
「もうっ! ひららふんっ!!!!」
「ひららふーん」
(……楽しそうだからいいけどよ)
軽く頬を膨らませて睨んでくる葵の攻撃に、日向はそっと手を離し、感情を無にしていた。そうでもしないと……いろいろヤバかったんだろう。
「行っちゃうの? ツバサくん」
「あ? ……あ、ああ。そうだな」
さっきはそう言ったのかと理解した。しかも日向の奴、葵が俺の方しか見てないからって両手で顔を覆ったまま壁際でダウンしてるし。何やってんだか。
「……そっか」
寂しそうにそう零す葵に、上がりそうな腕をなんとか押し止めた。
(……っ、もう、あれが最後だったんだ)
堪えて。堪えて……堪えて。葵が『ありがとう』なんて言った時はもう、自分でも堪えられてるのかどうかなんてわからないくらい、崩れていただろうけど……。
(……いいんだ。これで)
自分の中のどす黒い気持ちを吐き出すように。吐ききれるように、深く深く息を吐き出した。
「……まあ、なんかあったら言ってこい、二人とも。惚気は受け付けねえけどな」
流石にもう、それは勘弁だと。ほっぺたが元に戻った葵と、どうやら落ち着いたらしい日向にそう言って、息を吐きながら再びパーティー会場の方へ戻ろうとした。
「あ。つば――……、つばにいっ!」
「――!!!!」
「は?」
けれど、その声に驚いて振り返る。日向はというと、案の定ご機嫌斜めみたいだけど。でも、そんなのもう、どうでもいいくらいには……本当に驚いた。
「あ……お、い」
目を大きく見開く俺に、葵はにっこり笑いかけてくる。
「へへ。それじゃあ、またあとで! つばにいっ」



