すべての花へそして君へ①


「さっき、別に嫌じゃないって言ったじゃん」

「うん。言ったね」

「だから、嫌じゃないっていうのはわかってたよ?」

「ふむふむ」

「ただ、……嫌なことは、したくない」


 ……矛盾しとるがな。


「嫌がることは、……もう、したくない」

(ヒナタくん……)


 だから、嫌がってないってばよ。


(……ふう)


 彼の中で、わたしを傷付けようとしていたこと。それが、許せないんだ。


(もういいよって、ありがとうって、言ったんだけどな)


 きっと、一生無理なんだろうな。それがあったから、今あなたの隣に立てているんですけど。
 まあわからないなら、また何度でも言ってあげるさ。感謝はすれど、わたしは彼に謝って欲しいなんて、思ってないんだから。


「ヒナタくん、わたしは」

「はじめはさ、慌ててるの見て楽しんでたんだけど」


 ……ん?


「やっば。めっちゃ動揺してるし。おもしろ。的な感じで思ってたんだけど」

「おい」


 人が……人がものすごくパニックになっていたっていうのに。まさか、しばらく傍観してたなんて。やっぱりいい性格していらっしゃいマスネ。


「でも、困らせたかったわけじゃない」

「……!」

「本当に、嫌な思いをさせたのならちゃんと謝るけど、今はそうじゃないでしょ?」


 ……ちゃんと、伝わってた。『ありがとう』って気持ち。『ごめん』は要らないってこと。


「慌てさせたいとは思ってるけど、困って欲しくはない」


 嫌じゃないってことも、もちろ……ん?


「ちょっと待て。慌てさせたいって何だ」

「え。それ以外にどう説明しろと――、っ……!」


 突如手に力が入ったかと思ったら、グッと力強く引き寄せられた。構えていなかっただけに、自然と彼の腕の中に収まる。


「……え。 ひっ、ひな」


 言いかけた時、ちょうどわたしの横を自転車が結構な速さで。そしてすぐ、前方から来た自転車がヒナタくんの横を通り過ぎていった。


「こっち空けてるんだから、わざわざ狭い方通るなよ。しかも猛スピードでとか意味わかんないんだけど。車道走れよ」


 ぼそりと漏れた苛立ち。それからすぐ、「大丈夫だった?」と声をかけられながら力を緩められたけど。
 勘違いをした自分が恥ずかしくなった。顔が、上げられなかった。


「……? ……どうかし」

「なっ、なんでもない! ……ありがと」


 ヒナタくんは、ただ自転車が来て危なかったから助けてくれただけなのに。それを一人で勘違いして。ドキドキして。……うわっ。今、ものすごく恥ずかしい。