「葵~? なに照れてんだよ。教えてやれよ、こいつに」
「……なに」
怪訝な顔をしている日向を横目に、首を後ろに捻りながら未だに恥ずかしくて出てこられない葵に声をかける。
時々こいつらのこと、似てるなって思うけど、自分のことに関して鈍感なのもよく似てる。それがお互いにとっていいのか悪いのか、俺は知らねえけど。
(まあ俺は今、こいつらバカだな~って思ってるけどな)
しばらくしたら、蚊の鳴くような声で、ちっさく何かが聞こえた。
「…………、よくて……」
「だってよ」
「はあ? 聞こえないんだけど。ていうかいい加減そっから出てきてよ」
ハッキリ言って、俺も聞こえなかったけど。
日向がそう言っても、葵は出てこない。未だに俺の後ろに隠れたままだ。どんだけ照れてんだよ。どんだけ妬いてんだよ。
「葵~? もう一回、言ってやれー」
「……なんなの?」
ここまで照れてる葵なんて初めて見るから新鮮だ。……まあ、見えてないけど。わからなくて、俺に嫉妬してる不機嫌な日向なんかも貴重だ。まあ、やっぱりバカだなーって思うけど。
そんな感じで楽しんでたんだけど、そのあと耳に入ってきた言葉に、調子乗るんじゃなかったなって。ちょっと、後悔した。
「か……。かっこ。よくて……。……っ、見られないっ」
「だそうだ。今のは聞こえた――」
小さかったけど、今のは聞こえただろうと。そう、言おうとしたら……。
「……おい。俺にそんな趣味はない」
なんか、前からも抱きつかれた▼
まあ、抱きついた……とはちょっと違うか。
攻撃を食らった日向は、俺の肩に頭を乗せながら体重をかけてきていた。急所に当たったらしく、ほぼ自力で立っていない。
(後ろは葵。前は日向……)
なんだこれ▼
「オレだってそんな趣味はない。こいつしかいらないから」
「……あのさ。そういうの余所でやれよ。なんで俺を間に挟んで言うんだよ」
葵にあんなことを言われた日向は……どうせ照れてるんだろうけれど。別にそんなもの、俺は見たくない。今の状況、俺に得が全然ない。
なんだこれ▼
「……死ぬ。ほんと死ぬ」
「は? ……どうしたんだよ」
そうこうしていると、ものすご小声で日向が悲鳴を上げていた。一体どうしたのかと思ったけど……まあ、大体は予想がつく。
「オレ今日だけで何回も心臓痛くなった。死ぬ。マジ死ぬ。ほんと死ぬ。こいつに殺される……」
「あ。ソウデスカー……」
完全な惚気。俺にそれを言うな。



