「……まあ、あれだ。所謂ギャップってヤツだろ。日向がそんな髪なの、こいつは知らねえんだから」
「え? 知ってるよ。初めて会った時は黒かったし」
「いつの話してんだよ」
流石にこの二人の間は居心地が悪くて、勘弁して欲しくて身動きを取ろうとしたけれど……。
(……ビクともしねえ)
ガッチリ服掴んでるし。全然身動き取れねえし。ジャケットの裾の方だけ持ってるなら、葵の馬鹿力でも少しなら動けるだろうけど……。
(肩甲骨らへんと脇腹辺りを、これでもかと言うほど思い切り掴まれている……)
このまま柔道技か何かで投げ飛ばされそうだ。ちょっと動いてみるけど、やっぱり無理だし。足すら浮かせられないし。体重軽いくせにどうなってんだよ……。
(……ったく、どんだけ恥ずかしがってんだよ)
ギャップ効果と、あまりにもいろいろ強すぎる葵に、深いため息が落ちた。
「……まあ、照れてんだよ。な?」
「なんでツバサはわかるの」
「彼氏なのにわかんねえのかよ」
もちろん、ふざけてそう言った。けれど、背中側はそれに大きくビクッと震え、前からは「まだ彼氏じゃないし」って拗ねた声。
「はあ? 何してんだよお前。もらうぞ」
「絶対にあげない」
真っ直ぐ返ってくる言葉に目を剥くも、どちらかと言えば嬉しさの方が募った。
「ははっ」
素直じゃない、捻くれたこいつが。ハッキリと、後ろにいる奴にも聞こえるように『求めた』から。
特に執着してるものなんかないと思ってた。……けど、ずっと前からこいつは、ただ一人だけに執着してたんだ。
「……そっか」
――それを、嬉しい以外になんて言うんだ。



