すべての花へそして君へ①


「……まあ、あれだ。所謂ギャップってヤツだろ。日向がそんな髪なの、こいつは知らねえんだから」

「え? 知ってるよ。初めて会った時は黒かったし」

「いつの話してんだよ」


 流石にこの二人の間は居心地が悪くて、勘弁して欲しくて身動きを取ろうとしたけれど……。


(……ビクともしねえ)


 ガッチリ服掴んでるし。全然身動き取れねえし。ジャケットの裾の方だけ持ってるなら、葵の馬鹿力でも少しなら動けるだろうけど……。


(肩甲骨らへんと脇腹辺りを、これでもかと言うほど思い切り掴まれている……)


 このまま柔道技か何かで投げ飛ばされそうだ。ちょっと動いてみるけど、やっぱり無理だし。足すら浮かせられないし。体重軽いくせにどうなってんだよ……。


(……ったく、どんだけ恥ずかしがってんだよ)


 ギャップ効果と、あまりにもいろいろ強すぎる葵に、深いため息が落ちた。


「……まあ、照れてんだよ。な?」

「なんでツバサはわかるの」

「彼氏なのにわかんねえのかよ」


 もちろん、ふざけてそう言った。けれど、背中側はそれに大きくビクッと震え、前からは「まだ彼氏じゃないし」って拗ねた声。


「はあ? 何してんだよお前。もらうぞ」

「絶対にあげない」


 真っ直ぐ返ってくる言葉に目を剥くも、どちらかと言えば嬉しさの方が募った。


「ははっ」


 素直じゃない、捻くれたこいつが。ハッキリと、後ろにいる奴にも聞こえるように『求めた』から。
 特に執着してるものなんかないと思ってた。……けど、ずっと前からこいつは、ただ一人だけに執着してたんだ。


「……そっか」


 ――それを、嬉しい以外になんて言うんだ。