「……っ」
(……え)
けれどツバサくんは、酷く苦しそうに顔を歪ませてしまって。
「……っ、つば」
「ああ」
そのあとすぐにクシャッと笑って、被せるように彼を呼ぶわたしの言葉を掻き消した。
(……つばさ、くん)
そんな表情で笑う彼は初めてで。少し……見るに堪えられなくて。わたしの手は、彼の顔へと勝手に伸びていった。
「あ。浮気はっけーん」
「「え……?」」
全くやる気を感じさせないその言い方。間違いない。それは、わたしが探していた張本人……ご主人様だっ。
「……ご、しゅ……?」
「いや葵。お前それずっと言うのかよ……」
ご主人様は、恐らく変わらないので、これはずっとだと思うんですけど。……けど。
(ひなた……くん?)
「久し振りだな」
「そうだね」
えっ?
「いつ振りだ?」
「え? うーんと……四年振り、くらい?」
え。
「どうしたんだよ、いきなり」
「ん? ……まあ、ね」
さっきから『え』しか出てこないけど。そうなってしまうのも、無理はない。
(……だ、だって、声が聞こえた方を向いても)
声はちゃんと彼なのに。わたしが知っている彼が、そこにはいなかったんだ。
「さっきまで銀色だったのに」
「んー。……もうオレンジはいいかなって」
振り向いた先。そこにいたのは――
「……見つけてくれたしね」
髪を真っ黒に染めた、ヒナタくんだった。



