すべての花へそして君へ①


「……っ」

(……え)


 けれどツバサくんは、酷く苦しそうに顔を歪ませてしまって。


「……っ、つば」

「ああ」


 そのあとすぐにクシャッと笑って、被せるように彼を呼ぶわたしの言葉を掻き消した。


(……つばさ、くん)


 そんな表情で笑う彼は初めてで。少し……見るに堪えられなくて。わたしの手は、彼の顔へと勝手に伸びていった。


「あ。浮気はっけーん」

「「え……?」」


 全くやる気を感じさせないその言い方。間違いない。それは、わたしが探していた張本人……ご主人様だっ。


「……ご、しゅ……?」

「いや葵。お前それずっと言うのかよ……」


 ご主人様は、恐らく変わらないので、これはずっとだと思うんですけど。……けど。


(ひなた……くん?)

「久し振りだな」

「そうだね」


 えっ?


「いつ振りだ?」

「え? うーんと……四年振り、くらい?」


 え。


「どうしたんだよ、いきなり」

「ん? ……まあ、ね」


 さっきから『え』しか出てこないけど。そうなってしまうのも、無理はない。


(……だ、だって、声が聞こえた方を向いても)


 声はちゃんと彼なのに。わたしが知っている彼が、そこにはいなかったんだ。


「さっきまで銀色だったのに」

「んー。……もうオレンジはいいかなって」


 振り向いた先。そこにいたのは――


「……見つけてくれたしね」


 髪を真っ黒に染めた、ヒナタくんだった。