すべての花へそして君へ①


 ていうか、犬やら猫やら言う前に、下僕と悪魔なご主人様って立場だから。それ、絶対これからも変わらないから。……か、変わらないのか。


「犬でもなく猫でもなく飼い主でもなく、下僕であるわたしの悪魔なご主人様をざがじでいまずっ」

「……自分で言って泣くぐらいならやめろよ」

「だって本当のことなんだもんっ!」


 ヒナタくんが迷子になるわけはないし(※わたしじゃないから)。かと言って、無闇に彷徨きでもしたら今度はわたしが本当に迷子になって皇で遭難に遭うかも知れないし。下僕としての命は受けてないけど、それでもご主人様を見つけることができないなんて……っ。


(わたしは下僕失格です……)


 そんなアホなことを考えていると、鼻をツンと突かれた。驚いて目を開けると、目の前にいたのはもちろんお兄ちゃん。お兄ちゃんの、ツバサくんだ。


「愛情表現だからな、それは」

「……え」

「あいつは基本、人と関わることなんてしないから」

「……え、っと」

「お前もよく知ってるだろうけど、ただ素直じゃないだけだから。あいつは」


 やさしい兄の顔をしている彼に。さらっとそんなことを言ってくるツバサくんに。……反応に困って、少し体を捩った。


「心当たり、あるだろ?」

「……ぶ、不器用なのは嫌と言うほど」

「だから俺はずっと言ってるだろ? 不器用な奴なんだって」

「それも、わかってるけど」


 さっき、悩んだり、怖がったりすること自体が好きって言っているようなものだって、考えが至ったばっかりなのに。


(わかってたけど)


 彼の不器用さえもそうだと。そう言葉にされて、恋愛初心者も初心者。生まれたてのピヨピヨひよこに、一体どう反応しろと。


「……まあ、それはこれからも変わんねえだろうけど」

(あ。……やっぱり変わらないんですね。それは)


 ちょっと落ち着いた▼
 軽くパニックになっていたのがわかっていたのだろうかと顔を上げると、彼は楽しそうにニヤリと笑いながら頭をぽんぽんしてくる。


(……今までと、ちょっと違う)


 触れ方に思いが入ってないような気がして。こんなことを思ってしまうのは、もしかしたら悪いことなのかも知れないけれど。……なんだか少し、寂しかった。