「まあ見てて楽しかったけどね。流石のオレも、ちょっと我慢できなかった」
「んむぅ……、うえ?」
押されていた両頬は、今度はビヨ~ンと引っ張られた。
……見てて楽しかった? 我慢できなかったって……。さっき噴き出したやつ?
「どうしたの。いつもの勘の鋭さはどこに行ったの?」
「ふえ?」
「まだわかんない? そんなにパニクってたの?」
「……え。にゃ、なにを……?」
目の前で、何だかとても楽しそうに笑っている彼の意図がわからなくて。そっと頬から離れていった手を見て、彼を見て。わたしはただ、首を傾げた。
「なんか、困ってたでしょ」
「え」
「戸惑ってた。動揺してたか」
「え!」
「違わないでしょ」
「……ちがわ、ない」
でも彼は、ズバッとそう言ってきた。確信を込めて。
(顔に、出てたのかな。もしくは、お得意の独り言が漏れてたとか……)
眉を顰めながら考えていると、視界に大きな手が入り込んでくる。
出された手に、そっと手を伸ばす。するともちろん、その手を取ってくれたのだけど……。
「……ひな」
「行こ。アキくん家もうちょっと」
触れた指先。伝わってきたのは彼の小さな震え。繋がれた手から伝わってきたのは……。
「……うんっ」
確かな温度と安堵。
「手握るだけでわかるんだね! 流石はマジシャン殿!」
「それで全部わかったら本当にマジシャンかもね」
「十分わかってるでしょ?」
「どうかな」
ぎゅっと握られた手。それだけで、なんとなくだけど聞く体勢に入ったのかなって思った。
「……別に、嫌じゃないよって、言ったでしょ?」
彼は今、言いたいことが聞きたいんだ。
「え。……うん。それはちゃんとわかってる」
「じゃあ、なんでほっとしたの?」
『なんでオレ?』とでも言いたげな顔だ。『今はそっちでしょ?』とも。
「わたしもヒナタくんに、言いたいことは言って欲しいから」
「は? オレ? ……別にないけど」
「ほんと?」
「……さっきまで調子悪かったくせに」
「わたしのインスティンクトは無事回復しましたー」
「普通に『勘』って言いなよ」
はあとひとつ、大きなため息。一体ここ数十分の間に、何度彼の幸せは逃げていったことやら……。



