すべての花へそして君へ①


「あなた方が、とってもいい方たちで。……とっても残念です」

「え?」

(……ヒイノさん)

「だな、ほんと。マジで最低野郎だったら、顔の形変形するくらいぶん殴ってやってたし」

「へ……?」

(ミズカさん……)


 二人に一瞬目を丸くした父と母だったけれど、すぐに二人の意図することがわかって、ゆっくりと視線を上げた。上げた二人の顔は、やっぱりちょっと……だいぶ赤くなってたけど、とても凛々しく見える。


「ほんと。……あなた方が、あおいちゃんを愛していて。……とっても残念です」


 そう言うヒイノさんは、なんだか本当に残念そうで。ちょっと困ってしまうくらいだった。


「でも。……たとえわけがあったとしても、お二人がしてしまったことはあおいを傷つけました。だからただ、オレらが殴ったのはそれが理由です」


「あと、やさしすぎてちょっとムカつきましたけど」と、感傷に浸る前に続けて言ったミズカさんは、ちょっとかわいかったけど。でも、呆れではないため息をついている二人に、父も母も、なんだか困ったように笑っていた。


(ちょっと助け船……とは違うかも知れないけど)


 そんな四人の間に、すっと入ってあげた。


「でもまあわたしは、ヒイノさんとミズカさんにも嘘……というか、隠し事されてましたけどね?」

「そ、それは……」

「ごめんなさい。あおいちゃん」

「あ。違いますよ? 別に責めてるとかではなくて、そうではなくて……」


 二人が十分やさしいってことくらい、わたしはもうちゃんとわかってる。もちろん、父と母のことも。


「……ちゃんとわたし、わかってます。教えてもらいましたから」


 脳裏に浮かぶのはただ一人。それは、ここにいる全員がそうだろう。彼のことを思うだけで、今はもうこんなにも幸せでいっぱいだ。

 そうしていてハッと気付く。小さく笑ったあと「すみません」と断りを入れて、部屋の扉の方へとわたしは駆けて行った。


「すみませんカエデさん。入りにくかったですよね」

「……いや、今来たところだけどよ」

「嘘ばっかり」


 だって、明らかに湯気の量が少ないもん。ふふっと笑っていると、カエデさんは心配そうにわたしの後ろを覗きながら「大丈夫か」と声をかけてきた。
 どんな話をしていたか、バッチリ想像できていたんだろう。カエデさんの表情は本気の心配一色だ。そんなカエデさんに、わたしはニイっと破顔する。


「はい! 大丈夫ですよ。みんなやさしい方たちばっかりですから!」


 大きめに出した声は、もちろん部屋の中の人たちに聞こえている。流石にわたしがいないからって、喧嘩はしてないだろうけど。思い切り笑っているわたしに、カエデさんもほっと安心したように小さく笑った。