「花咲さん」
少し緊張した面持ちで。先程までのやわらかな雰囲気をガラリと変えた父と、それから母がその横に並んで、真っ直ぐにミズカさんとヒイノさんと向き合った。
そんな二人に眉を下げて。彼らからそっと離れ、一歩……二歩下がったところで、わたしは成り行きを見守ることに。
「あおいを、……助けてやってくれて、ありがとうございました」
「あおいのことを、育ててくださって。……ありがとうございます」
「……頭、上げてください」
深く深く頭を下げた二人に。ミズカさんは怒気を含ませながらそう声をかける。その声に、二人はゆっくりと顔を上げるけれど。
――ボコッ! ――ベチンッ!
顔を上げた父をミズカさんが。母をヒイノさんが。殴った。ビンタした。父は吹っ飛んだ。母はめちゃくちゃ髪が乱れた。
(うひゃー……。ミズカさんはするんじゃないかと思ったけど、まさかヒイノさんまでするとは……)
ミズカさんは、そりゃ結構手を抜いてたけど……ヒイノさん、めっちゃいい音しましたよ? 本気でやったんですね。
(そうだった。怒らせたら怖いのは、断然ヒイノさんの方だった)
おっかなびっくり。この先がちょっと怖くなって、少しビクビクしながら再び成り行きを見守ることに。
「正直言いますとですね、朝日向さん。オレはあなたたちをぶん殴りたくて仕方がありません」
「え……」
父は思ったであろう。『い、今思いっきりしましたよね……?』と。案の定父は、ぶん殴られた頬を抑えながら首を傾げている。
「ああ、今のはあれです。扉の向こうで執事さんに、『多分あおいはしてないから自分の代わりにしてきてくれ』って言われたんで」
「カエ……」
まあその通りだけれどもさ? さっきちゃっかりカエデさん自分で殴ってたじゃん。……相当腹立ってたんだね。全然足りなかったんだね。あなたも素直じゃない人ですね。
「奥様。わたしが叩いたのは何故か、おわかりですね」
「はい。……あおいを、苦しめたからです」
「……あおいちゃんはやさしいですから。どうせあなた方のことも笑って許したのでしょう」
(……何も言わないって。見守るって決めてたけど……)
そう言われて、少し動いたわたしを目聡く見つけた母は、そっと手で止めてくる。……そうされてしまっては何も言えなくて。ただ、自分の手を握り締めた。
「正直言って、とても残念です」
「ほんと、残念だ」
ヒイノさんの言葉に、ミズカさんも腕を組みながら重ねるように投げ飛ばしてくる。母も父もただ俯いて、彼らの言葉を浴びた。
「……っ、ヒイノさん。ミズカさん。わたしは」
流石に耐えられなかった。黙りを決め込むのも限界だった。
全部全部知って。それでもうわたしは、言いたいことは言えたから。もう二人を、これ以上責めないでやってくれと。割って入ろうとしたんだけれど……。



