すべての花へそして君へ①


「花咲さん」


 少し緊張した面持ちで。先程までのやわらかな雰囲気をガラリと変えた父と、それから母がその横に並んで、真っ直ぐにミズカさんとヒイノさんと向き合った。
 そんな二人に眉を下げて。彼らからそっと離れ、一歩……二歩下がったところで、わたしは成り行きを見守ることに。


「あおいを、……助けてやってくれて、ありがとうございました」

「あおいのことを、育ててくださって。……ありがとうございます」

「……頭、上げてください」


 深く深く頭を下げた二人に。ミズカさんは怒気を含ませながらそう声をかける。その声に、二人はゆっくりと顔を上げるけれど。


 ――ボコッ! ――ベチンッ!

 顔を上げた父をミズカさんが。母をヒイノさんが。殴った。ビンタした。父は吹っ飛んだ。母はめちゃくちゃ髪が乱れた。


(うひゃー……。ミズカさんはするんじゃないかと思ったけど、まさかヒイノさんまでするとは……)


 ミズカさんは、そりゃ結構手を抜いてたけど……ヒイノさん、めっちゃいい音しましたよ? 本気でやったんですね。


(そうだった。怒らせたら怖いのは、断然ヒイノさんの方だった)


 おっかなびっくり。この先がちょっと怖くなって、少しビクビクしながら再び成り行きを見守ることに。


「正直言いますとですね、朝日向さん。オレはあなたたちをぶん殴りたくて仕方がありません」

「え……」


 父は思ったであろう。『い、今思いっきりしましたよね……?』と。案の定父は、ぶん殴られた頬を抑えながら首を傾げている。


「ああ、今のはあれです。扉の向こうで執事さんに、『多分あおいはしてないから自分の代わりにしてきてくれ』って言われたんで」

「カエ……」


 まあその通りだけれどもさ? さっきちゃっかりカエデさん自分で殴ってたじゃん。……相当腹立ってたんだね。全然足りなかったんだね。あなたも素直じゃない人ですね。


「奥様。わたしが叩いたのは何故か、おわかりですね」

「はい。……あおいを、苦しめたからです」

「……あおいちゃんはやさしいですから。どうせあなた方のことも笑って許したのでしょう」

(……何も言わないって。見守るって決めてたけど……)


 そう言われて、少し動いたわたしを目聡く見つけた母は、そっと手で止めてくる。……そうされてしまっては何も言えなくて。ただ、自分の手を握り締めた。


「正直言って、とても残念です」

「ほんと、残念だ」


 ヒイノさんの言葉に、ミズカさんも腕を組みながら重ねるように投げ飛ばしてくる。母も父もただ俯いて、彼らの言葉を浴びた。


「……っ、ヒイノさん。ミズカさん。わたしは」


 流石に耐えられなかった。黙りを決め込むのも限界だった。
 全部全部知って。それでもうわたしは、言いたいことは言えたから。もう二人を、これ以上責めないでやってくれと。割って入ろうとしたんだけれど……。