「でも、それはお互い様でしょう?」
お母さんだって、たくさん傷付いたんでしょう? 泣いたんでしょう? 許されないことをしたと、思ってるんでしょう?
「わたしには、そんなお母さんを責める言葉なんて浮かんでこないよ。強いて挙げるなら、助けてあげられなくて『ごめんね』って。やさしいお母さんが『大好きだよ』って。……そんな言葉しか、出てこないや」
「……。あおいっ」
「昔のことはね、みんな悪くないんだよ。それから、みんな悪い」
――それで、いいんじゃないかな?
そう言うわたしに、母は涙を流しながら崩れ落ちてしまった。それに慌てて駆け寄ると、強く強く、母はわたしを抱き締めてくれた。
「ごめんなさいっ……。あおいっ」
母の巫女装束から仄かに香る香の匂い。それはわたしにとって、はじめて嗅いだ母の香りだったけれど……不思議と嫌じゃなくて。でも、再び母をあそこへ帰らせてしまったことが、やっぱり悔しかったから。わたしも小さく謝った。
「あおいがなんで謝る必要があるのか、わたしは全然納得してないけど」
一瞬、ふっつうのトーンで話した母に少々驚いたものの、すぐに一際強く腕に力を入れてくれて。……そして、欲しかったものをくれるんだ。
「愛してるわ。あおい」
「……! ……。おかあ、さん」
「今も。あなたを捨ててしまったあとも。その前も」
「……っ」
……もう。あんまり泣かないように……してたのにっ。
「あなたを生んだ時から……いいえ。お腹にいた時から。生を享けた時から。ずっとずっと。愛してるわ。だってわたしの、……たった一人の大事な大事な娘ですもの」
「……。おかあ。さんっ」
わたしがずっと欲しかった言葉。ずっと欲しかった、やさしい温もりと抱き締めてくれる細い腕。それを一気にくれるんだから……。もう。涙が止まらなかった。
「俺も。二人とも愛してるよ」
そっと近づいてきた父が、ふわっとやさしく、わたしたちを一緒に抱き締めた。
「乗っかったわね」
「乗っかったね」
「ええー! なんでー……」
「そもそも! あなたももっとあおいに言うことがあるんじゃないの!?」
「えー……。なんで俺、怒られてるんだろう……」
ガミガミ言う母に、父は少し困惑気味。
よく見てみると、父のスーツはシワだらけで。それから足元は泥が跳ね返っていた。……お父さんも、頑張ったんだね。……流石だなって、思った。
だって、お父さんは――



