すべての花へそして君へ①


「でも、それはお互い様でしょう?」


 お母さんだって、たくさん傷付いたんでしょう? 泣いたんでしょう? 許されないことをしたと、思ってるんでしょう?


「わたしには、そんなお母さんを責める言葉なんて浮かんでこないよ。強いて挙げるなら、助けてあげられなくて『ごめんね』って。やさしいお母さんが『大好きだよ』って。……そんな言葉しか、出てこないや」

「……。あおいっ」

「昔のことはね、みんな悪くないんだよ。それから、みんな悪い」


 ――それで、いいんじゃないかな?

 そう言うわたしに、母は涙を流しながら崩れ落ちてしまった。それに慌てて駆け寄ると、強く強く、母はわたしを抱き締めてくれた。


「ごめんなさいっ……。あおいっ」


 母の巫女装束から仄かに香る香の匂い。それはわたしにとって、はじめて嗅いだ母の香りだったけれど……不思議と嫌じゃなくて。でも、再び母をあそこへ帰らせてしまったことが、やっぱり悔しかったから。わたしも小さく謝った。


「あおいがなんで謝る必要があるのか、わたしは全然納得してないけど」


 一瞬、ふっつうのトーンで話した母に少々驚いたものの、すぐに一際強く腕に力を入れてくれて。……そして、欲しかったものをくれるんだ。


「愛してるわ。あおい」

「……! ……。おかあ、さん」

「今も。あなたを捨ててしまったあとも。その前も」

「……っ」


 ……もう。あんまり泣かないように……してたのにっ。


「あなたを生んだ時から……いいえ。お腹にいた時から。生を享けた時から。ずっとずっと。愛してるわ。だってわたしの、……たった一人の大事な大事な娘ですもの」

「……。おかあ。さんっ」


 わたしがずっと欲しかった言葉。ずっと欲しかった、やさしい温もりと抱き締めてくれる細い腕。それを一気にくれるんだから……。もう。涙が止まらなかった。


「俺も。二人とも愛してるよ」


 そっと近づいてきた父が、ふわっとやさしく、わたしたちを一緒に抱き締めた。


「乗っかったわね」

「乗っかったね」

「ええー! なんでー……」

「そもそも! あなたももっとあおいに言うことがあるんじゃないの!?」

「えー……。なんで俺、怒られてるんだろう……」


 ガミガミ言う母に、父は少し困惑気味。
 よく見てみると、父のスーツはシワだらけで。それから足元は泥が跳ね返っていた。……お父さんも、頑張ったんだね。……流石だなって、思った。

 だって、お父さんは――