「……あおい」
控えめに、母の声が耳に届く。それだけで、何を言おうとしているのかわかってしまって、楽しかった雰囲気に真面目な風が吹いた。
けど、嫌なわけじゃないんだ。今は母のしようとしていることの方が優先。そのつもりで二人はここにいたんだ。
だからわたしは、……ここへ来たんだ。
「わたしたちは、許されないことをしたわ」
わたしが一番初めにやけくそで話した内容以外、過去に触れないことを母は気にかけていた。
「責められる覚悟で来たの。ここにいたわ。わたしも、この人も」
だから、責めてくれと。母は、もっと違う言葉をわたしに求めてくる。……でも、言いたかったことは初めに言ったこと。あと、ほんのちょっとだけだ。
「お母さん、あのね? わたしは……」
ゆっくりと話すのは、わたしが今までどんなことをしてきてしまったのか。そして、……どんな思いでいたのか。後者はヒナタくんにも言われたから話すけど、正直今となってはわたしには些細なことでしかない。
「そんなわけないわ! だって、わたしはあなたを……」
「怒ったこと? 海に捨てたこと? 生むんじゃなかったって?」
「……っ」
「くるちゃん……」
確かにその時はしんどかったよ。つらかった。苦しかった。どうして生まれてきたんだろうって、自分を恨んだことだってあった。
「わたしは、仲が悪くなった二人を見て、責められる自分がいて、ああ。やっぱりわたしが悪いんだって思った」
嫌われたんだと思った。異常なわたしが、二人は嫌なんだと思った。
「二人に捨てられてからも、つらいことは何度もあった。何度も何度も、生まれてきたことを呪って、本当に死のうとしたことは、きっと数え切れないと思う」
普通の子だったら、何か違ったのかなって。普通になりたい……って。わたしは、何度もそう思った。でも。
「言ったでしょ? もう嘘はつかないでって。隠し事もしないでって」
そりゃもうたくさん傷付いたし、流した涙を返してくれって思うことも多々あるけれど。



