学生時代の頃も、こんな感じだったのだろうか。……ここにもう一人いたんだろうけれど、それが今空席になっているのが悔やまれる。
「お父さんはどうしてカエデさんの友達なの」
「え。あおい。それどういう意味……」
何故かものすごく落ち込んでしまったんだけど。そういう意味でわたしは聞いてません。
「お父さんって朝日向財閥の嫡男でしょう? どうして商業高校に通ったのかなって」
「ん? まあうちの父さんも変わっててさ。しっかり学んでこいって出された感じ」
「……そっか」
「初めは俺もその意図がわかってなかったけど、それがわかるようになって、今は通っててよかったなって思ってるよ」
いろんな出会いもあったからねと。やさしい顔なのに、どこか影を落とした表情の父は、きっとここにいない人を思い浮かべているんだろう。
そんな父を「気持ち悪いわっ!」ってスリッパで叩いたカエデさんは、きっと何を考えていたのかわかったんだと思う。
「イテテ……。なにも叩くことないのに」
「気持ち悪いことを言うからだ」
「結局叩いちまったじゃねーか」と言うカエデさんに、父がまた「ブッ」って噴き出して笑うもんだから。
「アオイちゃん。今ヤッテくれ」
「了解しました」
――カエデさん。軽くプッツン。
「いやいや待ってー! 冗談! 冗談だから!!!!」
「問答無用じゃあー!」
父のほっぺたを伸ばしたり、いろんなところを擽ったり。カエデさんは、その合間に頭へ拳骨をちゃっかり何度も入れたり。そんなわたしたちがじゃれている様子を、母は楽しそうに見ていた。
こうやって、わたしがいて、お父さんがいてお母さんがいて。今はカエデさんしかいないけど、たくさんのお友達がいて……。
それがきっと、当たり前に思う人もいるんだろう。けどわたしは、こんな当たり前ができることに、何度も何度も喜びを噛み締めた。



