すべての花へそして君へ①


 学生時代の頃も、こんな感じだったのだろうか。……ここにもう一人いたんだろうけれど、それが今空席になっているのが悔やまれる。


「お父さんはどうしてカエデさんの友達なの」

「え。あおい。それどういう意味……」


 何故かものすごく落ち込んでしまったんだけど。そういう意味でわたしは聞いてません。


「お父さんって朝日向財閥の嫡男でしょう? どうして商業高校に通ったのかなって」

「ん? まあうちの父さんも変わっててさ。しっかり学んでこいって出された感じ」

「……そっか」

「初めは俺もその意図がわかってなかったけど、それがわかるようになって、今は通っててよかったなって思ってるよ」


 いろんな出会いもあったからねと。やさしい顔なのに、どこか影を落とした表情の父は、きっとここにいない人を思い浮かべているんだろう。
 そんな父を「気持ち悪いわっ!」ってスリッパで叩いたカエデさんは、きっと何を考えていたのかわかったんだと思う。


「イテテ……。なにも叩くことないのに」

「気持ち悪いことを言うからだ」


「結局叩いちまったじゃねーか」と言うカエデさんに、父がまた「ブッ」って噴き出して笑うもんだから。


「アオイちゃん。今ヤッテくれ」

「了解しました」


 ――カエデさん。軽くプッツン。


「いやいや待ってー! 冗談! 冗談だから!!!!」

「問答無用じゃあー!」


 父のほっぺたを伸ばしたり、いろんなところを擽ったり。カエデさんは、その合間に頭へ拳骨をちゃっかり何度も入れたり。そんなわたしたちがじゃれている様子を、母は楽しそうに見ていた。
 こうやって、わたしがいて、お父さんがいてお母さんがいて。今はカエデさんしかいないけど、たくさんのお友達がいて……。

 それがきっと、当たり前に思う人もいるんだろう。けどわたしは、こんな当たり前ができることに、何度も何度も喜びを噛み締めた。