(……行っちゃった)
だから今は……やっぱりちょっと寂しいけど。
「あおい。話したいことが、あるんだ」
「許されることじゃないことは、わたしたちもよくわかってるの。……だから、その……」
二人が、本当に申し訳なさそうにそう言ってくる。もう全部知ってる。思いだってなんだって。ちゃんとわかってる。
「うん。……わたしも話したいこと、あるんだ」
嫌ってもらってもいいだなんて。二人は、そんなことを思ってるのだろうか。……多分、思ってるんだろうな。だって二人とも、やさしすぎるんだから。
だから。教えてあげないといけないんだ、わたしが。
「お父さん。お母さん」
真っ直ぐ前を見据え、彼らと向き合う。……うん。ちゃんと、向き合えてる。
(大丈夫。もう、……怖くないよ)
自分の中にある、子どもの頃の小さなわたし。子どもだったんだから、しょうがないのかも知れないけど……もし。もしも、あなたがもっともっと頑張っていたら、今とは何かが変わっていたのかも知れないね。
(でもね? 今はこれでよかったんだって、そう思ってるよ)
やり直せるなら。何度もやり直したいと思った過去。でも、やり直せないからこそ、進んだ先には素敵な出会いがたくさんあった。
モミジさんと出会って、愛情を知った。家族の愛も、友達としての愛も。
(そしてわたしは、恋をした)
彼と、みんなと、出会わせてくれた奇跡。わたしは今、ものすごく幸せだ。
「取り敢えず座ろうよー! 立ち話もなんだしね?」
えへへと笑いながら机を叩き、二人にそう促す。そんなわたしを見て、二人はパチパチと目を瞬いて驚いた様子だったけど、そのあとすぐ、ふっとやさしく笑ってくれた。
たったそれだけだけど。本当に帰ってきたんだと。あの頃の、楽しかった、幸せだった頃の時間が、戻ってきたんだと。
緩みそうな涙腺に活を入れて、わたしたちは会話に花を咲かせた。



