すべての花へそして君へ①


「荷物、ここ置いとくからね」

「あ。……うんっ。ありがとー」


 それからしばらくして。テーブルの上にわたしの大きな重い荷物をそっと置いて、彼はいつまでも泣いていそうな空気をやさしく止めた。そういう、ちょっとしたことで、どうしてこうも胸の中が温かくなるんだろう。……不思議だ。


「せっかくの家族水入らずなんですから、いろんな話してあげてください。どうせカナタさん明日仕事でしょ」

「え。なんでそんなに俺には冷たいの……」


 けどたちまちいつも通りの彼に。父への扱いはこれでいいのかと、ちょっと不安になったけど。それよりも気になったことが。


「ひ、ヒナタくんは……?」

「オレ? ……もう、大丈夫でしょ?」


 ふわっとやさしい顔をした彼は、安心したようにそう零した。


 ――今はしっかり話をすること。
 つらかったことも、楽しかったことも。二人も、わたしの話を直接聞きたいと思うから、いっぱい話してあげなよと。


「……そう、だね」


 ヒナタくんの言ってることはもっともだ。……だけど。


(……やっぱり、寂しいな)


 行って欲しくない。少しの間だって離れたくない。
 そう思っていても、これは今言うべきじゃない。ヒナタくんも、お父さんもお母さんだって、ただ困るだけだし。わたしの、……ただの我が儘だ。


「……そういう顔、今すんなよ」

「……?」

「ちょっと耳貸して」

「ん……?」


 上から降ってきた声に、首を傾げながらも彼の言う通りにした。


「そんなかわいい顔してたら、二人の前でちゅーするよ」

「……!! なっ……!?」


 慌てて、甘く吐息のかかった耳を塞ぐけど、一気に顔に熱が集まってくるのはどうにもできなくて。そんなわたしの反応に、目の前の彼はとってもご満悦だ。


「そう言っても、そんな顔するんだー」

「!? ちがっ……。これは、だって……」


 全部全部、ヒナタくんが悪いのに。言ったら言ったで、また意地悪なことを言われるかも知れないと思って、それ以上は言わなかったけど。


「……っ、ぅえ!?」


 そして何故か、ぐるんっと体を回された。