すべての花へそして君へ①


 外れた視線を追いかけるように見つめていると、ひと呼吸ふた呼吸後、彼の視線がゆっくりと戻ってくる。「まあ『襲え』とは言ったけど、キスしろとか服の中に手を突っ込めとか言ってないから、それは文句言うけどね」という文句付きで。
 ……ごめんね、レンくん。そこまではわたし、庇ってあげられないや……。でもそのあとヒナタくんは。


「……あおいが寝ないと、モミジの話をしてもらえなかったから、ちゃんと『ありがとう』って、言いに行く」


 ちょっと照れ臭そうに、でもやっぱり少しむかついた感じでそう言っていた。


「レンくんにも素直になれないんだね」

「これは素直とかよりも、嫉妬の方が強いからちょっと違う」


 ……あれ。捻くれさんはどこへ?


「ほら、ほんとにもう行こ? 完全に大遅刻だけど、悪いのはオレだから。文句は全部オレが受け付ける。そんなに言ってくるようなことは、みんなに限ってはないだろうけど、もし文句言われたらオレ呼んで。すぐ行くから」

「えっ。……わ。わか、った」


 少しずつ素直になってくれる彼を見ていると、すごく嬉しい気持ちになる反面。


「……? どうしたの?」

「……ううん。な、なんでもなーい」


 ヤキモチを妬いたとか嬉しいことを。さらっとかっこいいことを。……今の彼に、言った自覚はあるんだろうか。
 き、君だって無自覚じゃないか、と言ってやりたい。そして、こんなことがずっと続くんなら、本気で心臓さんの過労を心配しよう。そうしよう。