「なんだかごめんね。練習(れんしゅう)のジャマしちゃったよね」

 一緒(いっしょ)(みち)(ある)きながら、わたしはルイくんにあやまった。

()にしなくていいよ。サラは、オレがジャマで()()したかっただけだから。オレがいない間にグランジュッテの練習(れんしゅう)をしたいんだよ」

 ルイくんが()う。

「グラン……ジュ?」

「グランジュッテ。フランス()で〝大きな跳躍(ちょうやく)〟って意味(いみ)だよ。(ひざ)をしっかり()ばして(ちゅう)()ぶんだ」

 ルイくんは、ピンと(ひざ)をのばして(みじか)距離(きょり)をジャンプする。
 歩道(ほどう)を歩いているから、()んだ距離(きょり)はちょっとだけだけど、その(うご)きで、さっきみたルイくんのジャンプを(おも)()す。
 さっきルイくんが()んでいたのが、グランジュッテなんだってわかった。
 あんなふうにキレイなジャンプをするのは、きっとすごくむずかしいよね。

「ふたりとも、ずっとバレエを(なら)っているの?」

「うん。四歳(よんさい)から」

四歳(よんさい)から。すごいね」

「オレとサラのお(かあ)さんが姉妹(しまい)で、ふたりであのバレエ教室(きょうしつ)経営(けいえい)しているんだ。だから、仕事(しごと)()くついでに、オレたちにも(なら)わせたってかんじ。それで、なんとなく(つづ)けているだけだよ」

 ルイくんはそんなふうに言うけど、あのジャンプを見れば『なんとなく』でやっているんじゃないってわかる。

「さっきのジャンプすごかった。重力(じゅうりょく)(かん)じなくて、すごく自由(じゆう)()えた」

 わたしの言葉(ことば)にルイくんが照れくさそうに(はな)をかく。

「ありがとう。それでコトちゃんは、何年(なんねん)くらいバレエを(なら)っているの?」

「え?  わたし?  わたしは、バレエなんてやったことないよ」

 (おも)いがけない言葉(ことば)に、わたしは目を丸くした。
 そんな わたしを()て、なぜだかルイくんも()(まる)くする。

「そうなんだ。コトちゃん、姿勢(しせい)がいいし、手足(てあし)がスラリとしていから、バレエを(なら)っているのかと(おも)った」

 そんなこと()われたのははじめて。

「わたしのどこが? (まえ)学校(がっこう)でも運動神経(うんどうしんけい)がいいってほめられたことはあったけど、バレエなんてやったことないよ」

 ビックリして、わたしは首をひねって自分の手や足を確かめた。でもやっぱり、わたしの手足(てあし)は、ルイくんやサラちゃんとはちがう。

「そうなんだ。なんとなくバレエをしていそうな()がしたんだけどな」

 そこまで()ってルイくんは、パチンッと(ゆび)()らした。

「じゃあせっかくだから、(いま)からでもバレエをはじめてみたら?」

 ルイくんは、めいあんって(かん)じで()う。
 でも、そんなのムリだよ。

「えっ! わたしはいいよ」

 だってルイくんたちは、四歳(よんさい)から(なら)っていたんだよね。
 わたしが、(いま)から始めたって、さっきのルイみたいな(かろ)やかなジャンプができるようにはならないよね。
 何度(なんど)も「ムリムリ」てくり(かえ)してたら、ルイくんは、ざんねんそうな(かお)をする。

「そっか、ざんねん」

「ごめんね。ほらわたし、()(こし)してきたばかりだから。まずはこの(まち)のこと(おぼ)えて、(あたら)しいお(とも)だちも(つく)らなきゃだから」

 ルイくんがあんまりガッカリした(かお)をするから、あわててつけたした。

(とも)だちなら、もうここにひとりいるよ」

「え?」

 ルイくんは、うれしそうに自分(じぶん)(はな)を指でたたく。
 それって、ルイくんが、わたしの(とも)だちになってくれたってことだよね。

「ありがとう」

「それにきっとサラも、もうコトちゃんの(とも)だちのつもりでいると(おも)うよ」

「ホント? それってすごくうれしい」

 わたしは(こえ)をはずませた。
 新しい町に()(こし)てきてすぐに、すてきな(とも)だちがふたりもできるなんてビックリ。
 もしバレエを(なら)っていたら、そのままクルクルと回転(かいてん)していたと思う。そのくらい、ルイくんの言葉(ことば)がうれしかったんだ。
 だから文房具屋(ぶんぼうぐや)さんで、わたしはトウシューズの()のレターセットを()ったんだ。
 これでアミちゃんに新しい学校(がっこう)での生活(せいかつ)のことを報告(ほうこく)するんだ。