グランジュッテ・私の中のバレリーナ

 けっきょく、お(とう)さんにバレエを習うことは、ゆるしてもらえなかった。
 そのせいなのかな?
 発表会(はっぴょうかい)()わってから、サラちゃんの態度(たいど)が、なんだか(まえ)とちがうきがする。
 無視(むし)されているとか、なにかイヤなことを(いや)われたわけじゃない。
 (はな)しかければ、(こた)えてくれるけど、なんとなくさけられているきがする。

「ねえサラちゃん、わたしになにか怒ってる?」

 学校(がっこう)(かえ)(みち)、ひさしぶりにサラちゃんといっしょになったから、勇気(ゆうき)()してきいてみた。

「べつに、そんなことないよ」

 サラちゃんは、そう()うけど、わたしと()をあわせてくれない。
 ランドセルの(かた)のベルトをギュッとにぎる()のふるえを()れば、それがウソだってわかっちゃう。
 なんで怒っているのかわからない、わたしが(わる)いのかな?
 それでなにを()えばいいかわからなくなって(だま)っていると、サラちゃんがわたしに()く。

「そういえばコトちゃんは、けっきょくバレエを(なら)わないんだよね?」

 この(まえ)発表会(はっぴょうかい)でルイくんにバレエの才能(さいのう)があるって()われたわたしは、(かえ)(みち)で、サラちゃんとルイくんには、お(とう)さんにバレエを(なら)いたいって、お(ねが)いしてみるって(はな)してあった。
 そういえば、その(あと)からサラちゃんにさけられている()がして、そのことについて(はな)してなかった。

「お(とう)さんには、(いま)からじゃ(おそ)いから、ほかの(なら)(ごと)にしなさいって()われちゃった」

 でも、わたしはまだあきらめてない。
 またおお(とう)さんにお(ねが)いするつもりでいる。

「そうだよね。お(とう)さんの()うとおりだよ」

 わたしの気持(きも)ちをうちくだくみたいに、サラちゃんが()う。

「え?」

「だってコトちゃん、もう小学校四年生(しょうがっこうよねんせい)だもん。バレエのこと、なにも()らないし。やっぱり(いま)からはじめても(おそ)いよ」

 そう(はな)すサラちゃんの(こえ)は、見えないトゲでチクチクしていて、わたしの心が痛くする。
 見えないトゲが痛かったのは、言葉(ことば)にしたサラちゃんも(おな)じだったみたい。
 ハッとした(かお)で、自分(じぶん)(くち)をおさえている。

「なんできゅうに、そんなこと()うの?」

 この(まえ)は、わたしに(おど)ることをすすめてくれたのに。
 (おど)りたいって(おも)()はみんな、(こころ)(なか)(ちい)さなバレリーナがいるんじゃなかったの?

「ごめん。レッスンしたいから、(さき)(かえ)るね」

 サラちゃんは、それだけ()うと、早足(はやあし)にかけていっちゃった。