運と運命

家に帰るとお母さんはまたお店に並べるパンの準備をしていた。

「ただいま〜」

お母さんにも聞こえるように奥の方へ声をかけると、慌てたように
「あ、おかえり!ごめんね、気づかなかった」
と、玄関の方へ歩いてきた。
「全然大丈夫、パン作り大変だもんね!着替えてくるよ」
「……ねぇ、清麗、なんかいいことあったでしょ」
「っえ?」

自室に向かおうと階段を登ろうとした足を止めて、後方へ振り向く。

「なんか嬉しそうだもん、どうしたの〜?」

ニヤニヤとした表情を浮かべながら、腕に小突きをしてくる。

「ん〜…ないと言えば嘘になる、かな」
「なにそれ、まだ言えないこと?」
私はちょっと考えて
「……かな」と踵を返した。

動きを止めていた足を動かして今度こそ自室に戻り、部屋着に着替える。

勉強机に向かい、机に着いている引き出しを開ける。そこには、翠と会った最後の日にくれたお守りが入っていた。

そっか…あの翠だったんだ。
懐かしいなぁ、高校生にもなって再会できるなんて、思ってもみなかった。
でも、翠は覚えていなさそうだし、伝えるのはまだ先でもいいよね。

お守りをみて色々なことを思い浮かべていると下の階から自分を呼ぶ声がする。
「清麗ー!パン焼けたから持って行ってー!」「あ、はーい!」
慌ててお守りを引き出しにしまって、急いで自室を出て下の階へ降りた。