クールな同期は、私にだけ甘い。


「……桜井。まだいたのか」

彼の低い声が、静まり返ったオフィスに響く。

萩原くんの視線が、真っ直ぐ私を捉えた。彼の視線が、私のボロボロの企画書と、私の憔悴しきった顔の間を行き来する。

「は、萩原くん……どうして!?」

私は慌てて、乱れたボブヘアを手で押さえつける。

咄嗟に笑顔を作ろうとするも、酷使された口角が引き攣るだけ。そんな自分が情けなくて、俯いてしまう。

萩原くんは私の元へと、静かに歩み寄ってきた。

コツ、コツ、と規則正しい靴音が、私の耳にやけに大きく響く。

そして、彼は私のデスクの隣に立ち止まった。

萩原くんが見下ろす先には、無造作に置かれた企画書。そして、彼は整った顔をゆっくりとこちらに近づけてきて……

──ポンポン。

突然、温かいものが私のボブヘアに触れた。

反射的に顔を上げると、萩原くんの手のひらが、私の頭を優しく撫でている。

ふわりと、彼の石鹸のような清潔な香りが、鼻腔をくすぐった。

「……っ」

予想外の出来事に、私の思考は完全に停止する。

萩原くんの柔らかな、少しだけ硬い手のひらの感触が、じんわりと頭皮に伝わってくる。

その温かさが、私の冷え切った心をゆっくりと溶かしていくようだった。

「頑張るのも良いけど、あまり無理するな」

萩原くんの声は、囁くように優しい。

その瞬間、彼のクールな瞳の奥に、得体の知れない温かさを垣間見た気がした。