クールな同期は、私にだけ甘い。


首を傾げると、萩原くんは手元の資料を一枚、私に差し出した。

そこには『未来を拓くイノベーション』と大きく書かれている。

「これは、全社を挙げて、若手社員の自由な発想から新たなビジネスの芽を生み出すためのプロジェクトだ。部署の垣根を越えてチームを組み、ゼロから新しいサービスや製品のアイデアを練り上げていくんだけど……」

萩原くんの真剣な説明に、私の視線は資料に釘付けになる。

社内でも注目されている、大規模なプロジェクトだということは知っていたけれど、まさか彼が直接、私にその話を振ってくるとは思わなかった。

壮大なテーマに、私は胸が高鳴るのを感じる。

「特に今回は、『デジタル技術を活用した、地域活性化ビジネス』をテーマにしている。過疎化が進む地方の特産品を、ITの力で全国に広めるプラットフォームや、観光客と地域住民が交流できるようなアプリ開発とか、可能性は無限大だ」

「へえ」

「……優秀なアイデアは、実際に事業化に向けて動く可能性もある、かなり大規模なものなんだ。そこで、桜井に俺たちのチームに加わってもらい、デザイン面で力を貸してほしいんだ」

萩原くんの瞳が、真っ直ぐ私を見つめる。

彼の言葉には、私への期待が込められているのが伝わってきた。

彼の隣でこの大きなプロジェクトに挑戦できるなんて、こんなに嬉しいことはない。

星野さんの存在に焦りを感じていた私にとって、これはまさに「チャンス」だった。

萩原くんに釣り合う自分になりたい、もっと自信を持ちたい。これまでの臆病な自分を変えたい。

そんな一念が、私の心を強く突き動かす。