【琴音side】
夕方、定時を少し過ぎた頃。私は退社しようと、デスクの荷物をまとめていた。
「桜井!」
すると、離れた企画部の席から、萩原くんが私に声をかけてきた。手には、数枚の資料を携えている。
「悪い。少し話せるか?」
萩原くんは、今日の企画会議で使った資料を片付けながら、私に視線を向ける。
その真剣な眼差しに、私の心臓が小さく跳ねた。
「いいけど……どうしたの?」
私は、少し戸惑いながらも頷く。彼が仕事の相談以外で、こんな風に改まって呼び止めるのは珍しい。
「……桜井、実はお前に頼みたいことがあるんだ」
頼みたいこと?



