背後から微かな気配がして、心臓がドクンと跳ねる。
まさか、まだ他にも誰か残っていたなんて。こんな憔悴しきった姿、誰にも見られたくないのに……。
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは──。
「!」
企画部の同期、萩原蓮だった。
スラリとした長身に、清潔感のあるダークスーツ。サラサラの黒髪は、いつも目にかからない程度にすっきりと整えられている。
今日も、かっこいいな。
萩原くんは、企画部の中でも抜きん出た実績を持つエース。
彼のデスクには常に山のような資料があるが、いつもスマートに処理されており、その仕事ぶりは社内でも憧れの的。
私のような人間とはまるで違う、雲の上の存在だ。
部署は違うが私とは同期入社で、たまに話すことはあるものの、特に親しいというわけではない。
そんな彼が、まさかこんな時間にここにいるなんて……。予想外の出来事に、私は動揺を隠せない。
萩原くんは自分のデスクから資料を手に取ると、そのまま静かにエレベーターホールへ向かおうとする。
見られたくない姿を、見られずにすんだ。ホッと、胸を撫で下ろした次の瞬間──。
萩原くんの足が、ぴたりと止まる。そして、くるりとこちらを振り向いた。



