クールな同期は、私にだけ甘い。


夏の終わり、夜十一時。煌めく都会の夜景とは裏腹に、私、桜井(さくらい)琴音(ことね)の心は鉛のように重かった。

フロアには私のデスクの照明だけがぽつんと灯り、辺りはシーンと静まり返っている。

ウェブデザイナーとして入社三年目の、二十五歳。夢見た仕事のはずが、この一年、泥沼のスランプから抜け出せずにいる。

ノートパソコンの画面には、大手飲料メーカーの新商品キャンペーンサイトの企画書。

コンセプトの「爽快感と繋がり」から、クライアントが求める「エモーショナルな体験」を、どうデザインに落とし込めばいいのか……ちっともアイデアが浮かばない。

何日考えても、頭は真っ白だ。

提出した三つの案は、すべて『独りよがりな表現だ』と却下された。
その言葉は、まるで私という人間を否定されたみたいに、重く心にのしかかる。

「はぁ……」

もう、何度目か分からない溜息。

胃はキリキリ痛み、連日の睡眠不足で目の奥がズキズキする。

迫りくる締切への焦燥感と尽きぬ自己嫌悪が、私を蝕んでいく。

このままでは明日、先輩たちに顔向けできない。デザイナーとして、もう終わりなのだろうか。

「ああ、もう無理……!」

誰もいないはずのフロアに、私の声が虚しく沈んだ、そのときだった。