桜が咲き誇る春、受験生としての重圧を感じながらも、私は期待と緊張に胸を膨らませて、新しいクラス編成の掲示板の前に立っていました。

毎日、まるで背中に重石を乗せられたように息苦しい。
それでも、そんな日常の中で、私の視線はただ一点、彼の名前を探していました。

そして、その名前を見つけた瞬間、私は息を呑み、世界が一時停止したかのように感じました。

心臓が大きく跳ね、まるで耳元で響くかのようにドクンと鳴った。それは、喜びと安堵が入り混じる、確かな鼓動でした。

拓海くんは3年5組。そして、私は3年6組。

なんと、私と拓海くんのクラスが、ついに同じ南校舎の2階になったのです!しかも、隣同士のクラス。

この3年間で、これほど彼を近くに感じられることはありませんでした。

これまで広がるばかりだった距離という名の砂漠が、一気に青いオアシスへと変わったようで、私の心は歓喜で震えました。

思わず、大きく深呼吸をして、新しい空気を吸い込んだ気がしました。それは、長い冬を越え、ようやく訪れた春の陽光のようでした。

同時に、星野莉子さんのクラスも確認しました。
彼女は3年1組。場所は北校舎の1階。

星野さんと拓海くんの距離が、これまでで一番遠くなった。その事実が、私の心に、まるで希望の光が差したかのように、凍りついていた何かが融けていくのを感じさせました。

まだ「青山くんは星野さんが好きらしい」という曖昧な噂は完全に消えたわけではないけれど、物理的な距離が離れたことで、彼の気持ちはまだ分からないけれど、少なくとも話しかけることくらいはできるかもしれない。

そんな風に、私の心にあった重い壁が、透明な薄膜へと変わり始めたような気がしたのです。

この3年間、私は遠くから拓海くんを見守ることしかできませんでした。

登下校の姿、友人との会話、時には部活動の練習風景。それらすべてを、まるで輝く記憶の断片のように心に刻んできました。

会えない時間、彼が今何をしているのか、何を考えているのか、想像と妄想を繰り返してきました。

彼の日常という名のジグソーパズルを、心の中で一人組み立ててきたのです。

その想いは、決して色褪せることなく、むしろ日ごとに深く、強くなっていきました。

彼への「好き」という気持ちは、もはや私の一部となっていました。それは、私の心臓の鼓動と同じくらい、確かなものだったのです。

しかし、この新しいクラス編成は、私にとって大きな転機でした。

隣のクラス。これなら、休み時間に廊下に出れば、もしかしたら彼に会えるかもしれない。委員会活動や、体育祭、文化祭などの学校行事で、彼と接する機会が増えるかもしれない。

この3年間、私を縛り付けていた「感謝ってなんの話?滑り台?なんのこと?っていうかそもそもあなた誰?」という恐怖。

そして、「彼は星野さんが好きだから、私が出る幕はない」という思い込み。

それらの壁が、音もなく、しかし確実に低くなったように感じられました。それは、私の魂を縛り付けていた、見えない鎖が緩む感覚でした。

中学生活最後の年。私に残された時間は、もう長くありません。卒業してしまえば、拓海くんとはまた、遠い存在になってしまうかもしれない。

この3年間の募る想いを、ただの「遠い日の記憶」で終わらせたくない。

私は、小さな一歩でもいい。彼との距離を、少しでも縮めたい。私の心の中で、何かが音を立てて、力強く動き始めていました。

それは、長年抑え込んできた、拓海くんへの、真剣な「好き」という気持ちが、ついに固い蕾を破り、外へ向かって溢れ出そうとしている、確かな兆しでした。それは、嵐の前の静けさのような、しかし、希望に満ちた予感でもありました。