中学2年生になり、新しいクラスは、希望と不安が入り混じる、未知の世界のように感じられました。

期待と不安が入り混じる中、真っ先に確認したのは、拓海くんのクラスです。

掲示板の前に広がる生徒たちのざわめきの中で、私は彼の名前を探しました。

見つけた瞬間、心臓が大きく跳ね、まるで耳元で響くかのようにドクンと鳴った。

それは、胸の奥でひっそりと鳴り響く、予感のような音でした。

拓海くんは2年4組。そして、私は2年1組。

クラスはまたも別々。
しかも、今回は校舎まで違っていました。

拓海くんのクラスは南校舎の2階、私のクラスは北校舎の2階。

同じ2階とはいえ、校舎が違うということは、普段の生活で彼を見かける機会が、一層減るということでした。

廊下で偶然すれ違うことも、前よりずっと難しくなってしまう。

入学当初の喜びとは裏腹に、私の心に、深い孤独感が、冷たい水のように広がっていくのを感じました。

拓海くんの存在が遠ざかることで、心の穴が広がるようでした。

それに、あの噂は消えていませんでした。

「青山くんは星野さんが好きらしい」という曖昧な言葉は、しつこい幻影のように私に付きまとい続けました。

そして、最悪なことに、星野莉子さんも同じ南校舎の2階、2年6組。拓海くんのクラスのすぐ近くです。

(拓海くんと星野さんが、もっと会う機会が増えるのかもしれない…)

そんな想像ばかりが膨らみ、胸が締め付けられるようでした。

彼を遠くから見守る私と、彼のすぐそばにいる星野さん。

この距離が、私と拓海くんの間に、さらに厚い、ガラスの壁を築いているように思えました。

触れようとしても、ただ向こうが透けて見えるだけで、声は届かない。だから、彼が近くを通りかかっても、私はつい顔を伏せてしまうようになった。

2年生の毎日は、1年生の時よりも、拓海くんの姿を探すのが困難になりました。

休み時間も、遠く離れた南校舎まで行くことはできません。

それでも、私は諦めませんでした。

登下校のわずかな時間、体育館での学年集会、特別教室への移動の合間。どんな小さな隙間でも、彼の姿を探しました。

彼の笑い声が聞こえるだけで、心が少しだけ軽くなる。

彼の後ろ姿が見えるだけで、今日一日を、まるで祈りのように頑張れる気がしました。

ある日の午後、私は図書室へ向かう途中、たまたま南校舎の廊下を通っていました。

すると、教室から漏れ聞こえる声の中に、拓海くんの声が混じっているのが聞こえたんです。

楽しそうな、弾んだ声。

ふと目をやると、拓海くんのクラスの扉が少しだけ開いていて、そこから彼の後ろ姿がちらりと見えました。

そして、彼の隣には、星野さんの姿も。二人が何かを指差し、楽しそうに笑いあっているのが見えた気がしました。

思わず目を凝らすと、二人の間には、まるで磁石に引き寄せられるかのような、親密な空気が流れているように見えました。

その瞬間、私の心は氷点下まで凍りつきました。

きっと、委員会か何かの打ち合わせに違いない。そうであって欲しい。同じ南校舎だから、たまたま一緒にいるだけだ。

そう自分に言い聞かせても、胸の奥が締め付けられるような痛みを感じました。

それは、ガラスの壁にひびが入る音のようでした。

私は慌ててその場を立ち去りましたが、その光景が、まるで焼き付いたように脳裏から離れませんでした。

何度も何度も再生される、悪い夢の断片のように。

その日以来、私は今まで以上に拓海くんの動向を気にするようになりました。

彼の行動範囲、よく使う廊下、友達グループ…。休み時間には、彼のクラスの階の廊下を、偶然を装って通りかかったり、彼がよく利用する購買をさりげなくチェックしたり。

まるで影を追う探偵のように、私は彼に関する情報を集め始めました。

直接話しかけることはできないけれど、彼を知ることで、少しでも彼の隣にいるような気持ちになりたかったのかもしれません。

それは、虚しい埋め合わせのような、しかし私には必要な行為でした。

ある寒い日の放課後、私は校庭で体育の授業を終え、北校舎へ戻る途中でした。

ふと南校舎の窓を見上げると、拓海くんのクラスの窓から、彼が楽しそうに友人と話しているのが見えました。

西日が差し込み、彼の横顔をオレンジ色に染めていました。その穏やかな横顔を見ていると、胸の奥から温かいものがこみ上げてきました。まるで、冷え切った心に、遠くの灯りがともるような感覚でした。

どんなに遠くても、どんなに手が届かなくても、彼を見ているだけで、私の心は満たされる。そう思えたんです。

彼の幸せを願いたい。でも、同時に、彼に振り向いてほしいと願う気持ちも消えませんでした。

このどうしようもない矛盾が、私の心を深く蝕んでいきました。それは、蜜と毒が混じり合う、苦い味わいのようでした。

私には、彼に声をかける勇気はありませんでした。

あの曖昧な噂の壁、そして私が「青山くんは星野さんが好き」と強く信じ込んでいたことが、私の心をがんじがらめの鎖で縛っていましたからです。

私がもし、拓海くんの前に出て、あの時の感謝を伝えようとしたら、彼はどう思うだろう?

「感謝ってなんの話? 滑り台? なんのこと? っていうか、そもそもあなた誰?」

そんな風に言われたり、思われたりしたら、私はきっと立ち直れない。

その恐怖が、私の一歩を阻みました。

幼稚園の頃の私を救ってくれた、あの優しい記憶は、拓海くんにとっては、取るに足らない、あるいは存在すらしない出来事なのかもしれない。

そう考えると、胸が張り裂けそうでした。まるで、内側からナイフで切り裂かれるような痛みでした。

2年生の私は、ただ遠くから、拓海くんの背中を見つめることしかできませんでした。

その背中は、私からどんどん遠ざかっていくように感じられながらも、私の心の中では、彼の存在がますます大きくなっていきました。

それは、手の届かない場所に輝く星が、かえってその光を強めるように、私の世界を染め上げていったのです。