扉の向こう側に、誰かがいる気配を感じる。それが誰だか私には分かってしまった。

 カラカラ……と静かに開け放たれた扉の先にいたのは、小さな女の子。
 見覚えのある顔立ちと、小さい頃よく着ていた、私とお揃いのワンピースを身にまとった子。

「子ども……なんで?」

 ざわめきは私の耳には入らない。ただ、目の前にいる大好きなあの子が、私に向かって手を伸ばす様を、恍惚として見据えていた。

「くすくす……」

 不気味な笑い声も、今となっては救いの賛歌。
 私は縋り付くように、差し出された指先に応えるように手を伸ばし──瞬く間に暗い一室へ移動していた。

 そこは、この学校の放送室。

「きゃははっ」

「『カミサマ』っ! 『カミサマ』っ!」

 無邪気な笑声と共に、大勢の子ども達が私の周りを取り囲む。
 放送室の器具の明かりに照らされた顔は、僅かながら面影が残り、私の記憶の中と合致する。

 ああ……この子は聖歌だ。生きている聖歌に会えるなんて夢みたい。隣にくっついて回るのはきっと陽介かな。
 この子は愛音。茉実は……隅っこにいる。二人一緒じゃないなんてちょっと珍しいな。

 ……私の一番近くで、縋り付くように身を預けているのは、飛翔かな。小さな姿は可愛くって、その口元に浮かぶ不気味な笑顔すら愛おしい。

 そして──私を迎えに来てくれて、ずっと手を繋いでいる美月。

 薄らと微笑みを称え、導くように私を椅子へ座らせる。

 夥しいほどのスイッチや器具が敷き詰められたテーブル。横からひょこっと現れた子どもの一人が、器具を操作し始めた。
 多分、楓だ。放送部だったもの。よく通る声で私たちをまとめてくれていたっけ。

 準備は整ったと言わんばかりに、楓はテーブルを飛び降りて、後ろに控える子ども達の元へ戻る。

 私はスマホを取り出し、ショートメッセージに送られた二文字に目を落とす。
 『遊戯』のお題が、私をここまで導いてくれたのだと思い返す。

 ──会いたかった。会えないと分かっていても会いたくて仕方がなかった。

 その願いを叶えてくれるのが、『カミサマ鬼ごっこ』をもう一度行うこと。
 そうすれば、"前回のゲームで失格になった者"が、鬼として参加できるのだと悟った。

 きっと……それが子ども達の呪いであり、"ご褒美"なんだろう。

 だから私は、このゲームの『カミサマ』になることを選んだんだ。

 だって──皐月中学校2年A組は、卒業するまでずっと一緒なんだから。

 マイクの電源をオンにして、私は静かに向き直る。
 不自然なほど静まっている心の奥底に、華ちゃんの存在を感じながら。

『ザザ……お待たせいたしました』

 ──これより、『カミサマ鬼ごっこ』を開始します。