「どういたしまして。せっかくだし楽しもうね〜」

「うん……そうだね」

「他にもお菓子沢山あるから、来て来て!」

 萌歌に連れられ、私は殆ど話したこともない女の子たちのグループに割って入る。

「羽田さんやっほー。チョコレートあげる!」

「私も私も〜」

 気まずいかと思いきや、意外と友好的に接してくれ、いくつかお菓子を分けてもらった。

 こんなの、すぐ無意味なものになるのに、なんて思ってしまう自分は、酷い人間なのかな。
 ……この子達は、これから起きることの原因が私だと知っても、笑って許してくれるんだろうか。

「よーし、全員集まったな。ルール説明してやる! こっち集まれ!」

 やたら自慢げな朝陽の声掛けに応じて、ぞろぞろと教卓の前に移動する。

 身をもって知っているルールを聞き流す間に、21時が刻一刻と迫る。
 円を組んだ私達は、固唾を飲んでその時を待つ。

 53、54、55、56……57。

『水無月中学校2年3組生徒男女20名!』

 どこか聞き覚えのある呪文を早口で唱える。直後に席巻する沈黙が、ざわめく私の心を自然と落ち着かせる。

 あぁ……この光景、前にも見たなぁ──そんな懐古のせいかもしれない。

「何も起きねぇじゃん」

「やっぱダメかー。こういうの信じられねぇよな」

 弛緩した空気が、やいのやいのと盛り上がりを見せる。お菓子パーティーをしようと、全員が荷物を取りに向かおうと動き始める。

 ──その、直後。

『ザ……ッ』

 唐突に発せられたノイズ音。奇妙な響きは、騒がしい教室を先鋭に通り抜ける。

「は……?」

「今、なんか音が……」

 楽しげな喧騒は、緊迫感を帯びたどよめきにすり替わる。全員が狼狽したように、不安げな視線をスピーカーに向けた。

 ああ……やっと、会えるんだ。皆に──あの日、消えてしまった私の友達に。
 耳をすませば、タッタッタ……と乾いた足音が、廊下から迫り来るのが聞こえてきた。

「足音……?」

 全員が恐怖の渦中に落とされる中、私はふらり、と扉の方へ歩み出た。

「ちょ、羽田さん?」

 萌歌の怯えたような声。萌歌には沢山良くしてもらったな。
 でも、私にとってはほんの数ヶ月の、短い間の記憶でしかない。

 早く──逢いに来て、美月。