……華ちゃんは、こんな空気の中、自分の意思をはっきり伝えたんだ。
 それはきっと、真帆さんの業を背負って、このゲームを終わらせるため、だよね。

 でもそれって、すごく勇気のいることなんだって、今なら分かる。

「ね! 羽田さんもやらない?」

 転校してから人と関わらない私によく話しかけて来るクラスメイト──頼久萌歌が、興奮気味に話かけて来る。

 このゲームが生死に関わるものなんだって分かってる。それどころか、存在丸ごと消されてしまうような、取り返しのつかない代物だって知ってる。

 私が転校してきたせいで、彼らを巻き込んでしまう──そんな、欠片にも満たない罪悪感は、私の中からは既に消えていた。

「うん……やる」

「ほんと!? 一緒に頑張ろうね!」

 愛嬌のある笑顔を向け、萌歌は仲の良いグループの元へと戻っていく。

 ……私みたいな、無愛想なクラスメイトに話しかけるなんて物好きだなぁ。
 これから起こることを知っているのに、今更仲良くなって、絆なんて作りたくない。だから私は誰とも話さない。

 そうじゃないと……今にも崩れそうな継ぎ接ぎの精神が、砕け散ってしまうから。


 ゲームの日は、思いのほかすぐにやって来た。

 やっぱり、『カミサマ鬼ごっこ』は二の次で、夜の学校でお菓子パーティーをすることがメインになりつつあった。でも、私が背負っているリュックサックの中は空っぽだ。

 家を出た私は、一人で通学路を歩き、裏門を通って、靴を履き替えて教室へと向かう。

 教室の鍵は開けられていて、既に殆どの生徒が揃っていた。

「あっ、羽田さん来た」

 窓際にいた萌歌がこちらへ駆け寄り、私の手のひらに何かを握らせる。

「はいっ、おすそ分け!」

 手を開くと、そこあったのは個包装の飴玉だった。
 このお菓子……確か私も、棗と交換したっけ。聖歌や美月にもあげたんだよね。

 ふとした瞬間に、じわり、と目頭が熱を帯びる。でも、悟られまいと笑顔を貼り付け、「ありがとう」とお辞儀した。