まだ聞き慣れないチャイムが鳴る。騒然とした教室が、少し喧騒を抑えて、先生を待つ。

 見慣れない教室で独り、私──羽田結月は、読書に耽っている。

 親の都合で転校した私は、転校先の学校──水無月中学校2年3組で、ただ本を読む空気に成り果てていた。

 華ちゃんがいつも本を読んでいた理由が、やっと分かった。
 壮絶な記憶とこれから起こる凄惨な悪夢が、永遠に頭の中を巡ってしまう。

 どうにかして気を紛らわせないと、到底正気を保てない。

 ゲームが終わって以降、両親の記憶からは美月の存在は消えていて、私は一人っ子ってことになっていた。

 どうしようもなかった。今更、美月の存在を主張しても、頭がおかしくなったと騒ぎ立てられるのは目に見えていた。

 だから、智也が言っていた、『オカルト系の掲示板』に、何かヒントがあると思って調べ尽くした。

 その掲示板は見つかり、『カミサマ鬼ごっこ』に関する書き込みもあったけど、何故か会話が噛み合わない違和感だらけのものだった。
 多分……いくつかの投稿が消されている。それでも、たった一つだけ、明確に残されている書き込みがあった。

 『カミサマ鬼ごっこは実在するゲームで、実際に参加した人がいるのは間違いない。』
 これだけは消えずに残っていた。だから私も、その掲示板に書き込んだんだ。

 『楽しい鬼ごっこだったから、とってもオススメだよ』って……。


「なあなあ、皆で夜の学校に集まってゲームしようぜ!」

 デジャヴだ、と独りごちる。朝礼が終わり、先生が退室した直後そう言い出したのは、ムードメーカーの橋本朝陽だった。

「なぁにそれ?」

 朝陽と付き合っている女の子──宮野未羽が聞き返す。

「『カミサマ鬼ごっこ』っていうゲームなんだけど、実際にやった奴がいてさ。オススメっていうから試してみたいんだよ」

「それ信用できるのか?」

「多分な。クラス全員で夜の学校とか面白そうじゃね?」

「確かに! いいじゃん、やろやろ!」

「先生に怒られない? それ……」

「バレなきゃ大丈夫じゃないー?」

 やいのやいのと盛り上がる教室。全員が参加する方向で進んでいく。