「──きゃははっ!!」

「『カミサマ』じゃない! 『カミサマ』じゃない!!」

「『カミサマ』じゃないなら、いらなーい!」

 途端に、今まで大人しく佇んでいた鬼が、華ちゃん目掛けて一斉に飛びかかった。

 バキッ、ゴキリ、と何かが軋んで砕けるような音と断末魔が、雑踏の中を潜り抜ける。

「ひぃっ……」

 教卓にぶつかった反動で、派手な音が鳴る。けれど華ちゃんがいた場所に群がる鬼達は、一心不乱に華ちゃんへ襲いかかる。

 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!

 最期の言葉が頭の中にこびり付いて離れない。ただ、耳を塞ぎたくなるような音が時折木霊し、じわじわと私の心を抉っていくのを感じながら、呆然と眺める。

 華ちゃんを……鬼が襲っているのだと。それが華ちゃんが『カミサマ』で無くなったからだと認識するまでに、華ちゃんらしき声も、気色悪い音も途絶えてしまっていた。

 満足したように、鬼は次々と華ちゃんの体から離れていく。華ちゃんを足蹴に飛び降りるその様は、まるで悪魔のようで。

「ぅ……っぷ」

 鬼が華ちゃんから離れていくにつれて、徐々に全貌が明らかになっていく。

 歪に曲がった関節。ありえない角度に折られた首。原型を留めていない死に様が、自分の気持ちとは裏腹に目に焼き付いていく。

 さっきまで私と話していた人間が、瞬く間に呼吸を止める。気持ち悪くて、気持ち悪くて……吐き気が止まらない。

 ──鬼がすぐ傍にいることすら忘れていた。

 鬼が私を狙っていたとしても、それで良い。その方が楽になれるからと、頭の片隅では望んでいたのかもしれない。

 タタッと、乾いた足音が、私の隣で止まった。
 鬼が……傍にいる。でも、不思議と恐怖はなくて。

 もういい。私も一緒に……皆の所に連れて行ってよ。
 私には、華ちゃんのことも、真帆さんのことも……死んでしまった子ども達全ての業を背負うことはできない。

 どうしろって……言うの? こんな、誰も救えないような、何も出来ない私に。

 ──皆に会いたくて仕方がないような、ひとりぼっちの私に。

「……どうしたの?」

 ──怖いくらいに、優しい声だった。

 淡々とした声音とは裏腹に、その言葉の端々から感じられる、私への心配。
 本当に鬼なのかと、素朴な疑問が湧き出てくるほどに。

 そっと、顔を上げる。視線の先にいたのは、小さな女の子。

 小綺麗な服を纏いながらも、肩まで伸びた髪の毛はざんばらに切り落とされている。
 最早見慣れてしまったはずの異質さに、全身が怖気立ち、拒絶するような不快感が奔流した。

 ──彼女の顔が、とても見慣れた、"あの子"だったから。

「……どう、して?」

 どうして、そんなに小さな姿なの?
 どうして、急に目の前に現れて、悲しげな目で私を見るの?

 心配するように、手を伸ばしているの?

「──美月……なの」

 私の、たった一人の大好きな妹が、或る日の幼い姿のまま、そこに佇んでいた。