ただ……恨みがましく呪ってやろうとは思えなかった。

 私の頭じゃ噛み砕くのが精一杯で、これが正しいのか判断がつかないけど。
 でも、ずっと誰かを呪って生きていくのは、辛いし、悲しい。

 幾ら謝罪を重ねられても、許そうだなんて思わない……でも、華ちゃんはこれ以上、何も背負わないで欲しいって思うんだ。

「話してくれてありがとう、華ちゃん」

「羽田さん……」

「私は華ちゃんのことも、真帆さんがしたことも許せない。でも……恨んだりもしない。これ以上誰かを恨んで、呪って、憎んで……なんて、そんなの嫌だよ」

「だけど……皆を巻き込んだのは、紛れもなく私だから……」

「大丈夫。一緒に謝るから。精一杯、謝るから」

 俯く華ちゃんを励ますように、私は力強く言い聞かせる。華ちゃんはまだ何か言いたげだったけど、私の勢いに気圧されたようにこくりと頷いた。

 良かった、と私が胸を撫で下ろしたのも束の間、華ちゃんは不意に立ち上がり、スカートについた埃をささっと払う。

 月明かりが差した華ちゃんの表情には、決意と憂慮が滲んでいて。

「……本当にごめんなさい、羽田さん」

「その話はもう……」

「違うの。これから私は、貴女に全てを押し付けてしまう」

「え……っと、何を?」

「……全部だよ。私達の業全てを、羽田さんに託すしかないの」

 ──それが、最後の一人に与えられる"ご褒美"だから。

「何言って……」

 華ちゃんの言葉が理解できない。
 ただ、このまま放っておいてはダメだ、と訴えるように手のひらにじわりと汗が滲む。

 今にも消えてしまいそうな出で立ちの華ちゃんは、夜空のように綺麗な濃紺の瞳で私をまっすぐ見据えた。

「私には無理だった。だから、お願い」

 ──このゲームを終わらせる方法を、どうか見つけて。

 嫌な予感がする。瞬時にそう理解した頭は、全身に危険信号を発する。
 けど、疲れ果てた私の体は、そう簡単に動くことはできなかった。

 華ちゃんがくるりと後ろを向く。その先にいるのは──獲物を狙う獣のように、爛々と眼光を輝かせた鬼の群れだ。

 今か今かと待ち受ける鬼へ向かって、華ちゃんは告げる。

「私は……『遊戯』のお題を放棄します」

 ──我儘を言ってごめんね。

 視界に映るモノが動くほんの直前。
 最期に、そう聞こえた気がした。