「わ、私も行く!」

「ありがとう聖歌ちゃん」

 私と飛翔がいがみ合っている最中、聖歌と陽介の間でも何やら話がまとまったらしい。
 男子組は全員仲良いから、多分、智也に交渉するように言われたんだろうな。

「……全員参加ってことは、私も参加しなきゃなのね」

「美月……そう、だね?」

「……仕方ないわね。聖歌もいるし」

「ガチで!? おい智也、羽田妹も参加するってよ!」

「おぉ! ナイスだ飛翔!」

 お祭り騒ぎになった教室。面白そう、非日常感あるよねー、なんて会話が飛び交い、まだゲームが始まってもないのに騒々しくて、その雰囲気にすらワクワクしちゃう。

 だけど、その喧騒を破る一言が、唐突に放たれた。

「……ダメっ!」

 切実さを孕んだような拒絶の一言。即座に静まり返った教室で、皆の視線は一人のクラスメイトに集中した。

 ……華ちゃんだ。

「ま、前畑?」

 華ちゃんのあんな大声……きっと誰も聞いたことがない。信じられないような、虚をつかれたと言わんばかりの視線が華ちゃんを突き刺す。

 どうして、なんて疑問が浮かぶよりも前に、さっきの華ちゃんの言葉を思い出す。
 確か、このゲームに参加しない方がいい、って……言ってた。

「前畑、どうしたんだ?」

「……ダメ、なの。そのゲームをしちゃダメ」

「参加出来ないってことか? でもネットで見た感じクラス全員参加が必須なんだ……どうしても無理か?」

 智也が遠慮がちに華ちゃんへ問いかける。華ちゃんは椅子に座ったまま、膝の上で一度ぎゅっと拳を握るのが見えた。

「私は……参加したくない」

 日頃の寡黙な華ちゃんからは考えられない強気な態度に、その場にいる全員が困惑していた。
 智也も困ったように肩を竦め、どうしようかと眉をへの字に曲げている。

「ちょっと、前畑さん」

 俯く華ちゃんの元へ、一人の女の子──湖山愛佳がづかづかと歩み出た。
 びくりと肩を震わせた華ちゃんを他所に、愛佳は苛立ったように正面に仁王立ちする。

「あなた一人の都合が許されると思ってるの? 従って」

 愛佳の言葉に、クラスの空気が張り詰めた。

 内心、華ちゃんの気持ちを尊重したいとは思う。けど、小さな正義感で愛佳に楯突こうとは思えない。
 愛佳はこのクラスの絶対的な女王様だ……普段は優しいけど、こういう時は絶対に譲らない。

 華ちゃんは高圧的な愛佳に萎縮してしまったのか、遠目から見ても分かるくらい体が震えていた。

「……分かった。ごめん、なさい」

「分かればいいのよ」

 ふんっと鼻を鳴らし、愛佳は仲良しグループの中へ戻って行った。

 華ちゃん大丈夫かなぁ、なんて思う間もなく、智也が気まずくなった空気を晴らすように、「来週の金曜日、教室に集合な!」と声高らかに叫んだのだった。