女の子の鬼は、悪意と享楽を帯びた眼光で──夜空で淡く輝く月のように美しい笑顔を咲かせた、美月の背中を捉えた。

 鬼が地を蹴り上げ、歓喜の産声と共に美月目掛けて迫り来る。

 嫌だ、連れて行かないで──私から美月を奪わないで。

 鬼を追い払うように、私は美月に手を伸ばす。私が先に鬼に触れさえすれば、私が先に失格になる。

 ──なのに、ほんの一瞬、あと指先一つ分、足りなかった。

 刹那の間に視界から消えた美月と鬼。伸ばした手は空を切り、バランスを崩して前にどさりと倒れ込む。

「……っ」

 いなく、なった。消えた。失格になった。

 美月が……私を庇って、消えた。

 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だっ!
 ……私が、私が失格になるはずだったのに、どうして……っ!!

 現実を受け入れたくない。そこにいたはずの美月はもういない。
 ただ、座っていた場所に残っている僅かな温もりに縋るように、私は倒れたまま動けない。

 美月……最後に、笑った。笑ったんだ。
 不器用で、ぎこちなくて……なのに、愛情を注ぐように、優しい笑顔を私に向けた。

 美月のお題は──『不笑』、だったの?

『ザザ……ガッ……羽田美月、お題違反により失格。ルールに則り、ゲームを終了します』

 無機質な声が、無慈悲にも美月の体温を奪う。消え失せる美月の存在が、急速に私の心を冷やす。

 たった一人の生き残りは──19人の屍の上で、力無く座り込んでいた。