「……結月、最後のお願い。このまま私の話を聞いて頂戴」

「……」

 背後の扉を叩く音にかき消されそうな、霧のように儚い声音。頷くことすら出来ないまま、美月は言葉を紡いでいく。

「結月が優しい子なのは、私が誰よりも知っているし分かってるわ。その優しさのお陰で、私はここまで生きていられたの」

「……ん」

「私は自分が優しい人間だなんて思わない。結月みたいに、誰かの為にがむしゃらに頑張るなんて無理よ」

「……」

 そんなことないよ。そう目で訴えかけても、美月は僅かに首を横に振って、否定するように悲しげに口元を歪ませる。

「ずっと思ってた。もし一人残るなら結月がいい、って……全員で逃げたいって思っていても、私にとって結月は特別なの。本当に……特別なのよ」

 瞳に宿る光が柔らかく揺れる。双子だから、なんて安っぽい理由なんかじゃないと、そう伝えている気がした。

 ……私だって、美月は特別。双子だからずっと一緒にいられた。でも、それ以上に──美月の性格を知って、全部ひっくるめて、大好きなんだ。

「恨みっこなしなんて言っておいて、酷い人間よね……だから、私には残る資格はない」

 突然、唇に触れる美月の指に、僅かに力が入った。
 絶対に口を開けさせない──そんな確固たる意思が伝わってくる。

 ……もしかして、美月も私と同じように……!?

「んっ!」

「ごめんね……大好きよ、結月」

 ──私の、たった一人のお姉ちゃん。

「──きゃははっ! お題いはん、はっけーん!!」

 美月の最後の一言が、弾けるように破壊された扉が叩きつけられる轟音と重なった。

 美月越しに見える、小さな鬼の姿。鍵を力技で破壊し、扉を突き破った鬼がそこにいた。
 見覚えのある見てくれは、紛れもなく先程私や飛翔達を追いかけていた、残りの一人。