「美月、お願い。どこかに隠れて……っ!」

 スマホを掴んで、私はその場から勢いよく駆け出す。
 足がもつれて盛大に転けてしまいながら、今にもこじ開けられそうな扉へ手を伸ばし、力の限りを込めて抵抗する。

 扉にかかる指先が痛い。強い力で圧倒される。強引に、力任せに開けられる。嫌だ。そんなの……嫌だ!

 皆と一緒にクリアしたかった。帰りたかった。でももう、それは叶わない──せめて、美月だけでも助けなきゃ。

 姉として──最期くらい、役に立たせて欲しいから。

「っ……」

 子どもとは思えない力で押し負けそうになる。両腕が痛みを訴え始めても必死に抗う。

 扉の鍵が生命線。ここが壊れたらおしまいなのに……鬼は見た目に似つかわしくないほど怪力で、鍵が無情にも叩きつけられていく。

 このままじゃ壊れちゃう……っ。

「──結月」

 ふわりと、私の傍に力無く座り込んだのは、美月だった。
 私が扉を掴む手を取って、まるで幼い子どもをあやすように、優しく添える。

 どうして……逃げてって、隠れてって……言ったのに!!

「美月、早く隠れてっ。もう走れないでしょ!?」

「走れないわ。走りたくもないの」

 美月が私の手をそっと撫ぜる。その顔は、辛そうで、苦しそうで……何かに追い詰められているみたいで。

 それでも、その瞳には、確かな光が灯っていた。

「もういいの。いいのよ」

「どうして……!? 捕まるなら私でいいの! だから早く美月は……っ」

「やめて。お願い……」

 ばっと、美月が私の体に手を回し、抱きしめる。その勢いに気圧され、私の指は扉から離れてしまって──どさりと体が床に倒れる。

 だめ……早く、早くしなきゃ! そうじゃないと美月が捕まる!

「美月! 離して……!!」

「離さないわ。結月、大人しくて」

 じたばた藻掻く私を、美月は優しく包み込んで離さない。扉が激しく揺れ、その音が次第に大きくなっていくことが、私の心をじわりと焦がす。

 そんな……どうしてこんなことをするの!!
 私はただ、美月に生き残って欲しいだけなのに……っ。

 ──それなら、私がお題違反になってしまえば。
 ──私のお題が、『秘匿』だってことを美月に伝えてしまえば、全てが上手くいく?