「……ゲームでもしてなさい」

「そんな呑気なこと……できるわけないじゃん」

「あと6時間もあるのよ。少しでも時間を潰して」

 そもそも電波が届いてないから、ゲームなんてできっこない。そう言いたくても、美月に現実を突きつけるのは憚られてしまって、渋々飛翔のスマホを手に取る。

 でも、何をする訳でもなく、ぼーっとロック画面を眺めるだけ。
 ロック画面は、きっとこの前の試合の時に撮った、部活チームの集合写真だ。飛翔が小さく写っている。

 ……もう一度、『羽田姉』って、あの声で呼んで欲しい。下の名前なんてどうでもいい。声が聞きたい。

 叶わない願いでしかなくても──求めてやまない、私への救済。
 あぁ、もう、全部全部、壊れてしまえばいいのに。

「ねぇ、結月」

「……何?」

 ふと、美月が小さく私の名前を呼ぶ。

「私ね……とっても、楽しかったわ」

「……何、が?」

「生まれてからずっとよ。ずっと……結月と双子で良かったと思ってる」

「変なこと言わないでよ」

 淡々とした台詞に、なんだか気恥ずかしくなって、私は美月を見ないように顔を逸らす。

「本当のことよ。小さい頃、笑わない子だって気味悪がられていた私に、結月だけは隣にいてくれたでしょう」

「……そんなことあったっけ」

「私は覚えてるわ」

 確かに美月は、幼稚園の頃からあまり喋らないし、笑わないし、泣きもしなかったっけ。

 でも、私にとっては、同じ顔をした大切な双子の妹で──だから、美月と一緒にいるのは自然なこと。
 それが、美月にとっては、違ったみたいだった。

「サボり癖があって、突っ走りがちで、よく私や……聖歌にお世話されていたけれど」

「うっ……それは言わないで……」

「でも、貴女がいなかったら……飾り気の無い、寂しい日々を送っていたんだって思ってる」

「……そう、かな」

「そうに決まっているわ。だからこそ……私一人じゃ手に入らない思い出を、沢山作ることが出来たの」