「お、羽田姉妹は不参加か?」

「ひゃあ!」

 声の主が一瞬で誰か分かってしまい、らしくなく悲鳴を上げてしまう。
 恐る恐る後ろを振り返ると、そこには学校一のイケメンと名高い、小川飛翔が意地の悪い笑顔を浮かべていた。

 私たちのことを『羽田姉妹』とか、『羽田姉、妹』って呼ぶのは飛翔だけだ。

「声がでかいぞー」

「女の子に向かって失礼じゃない?」

「女の子扱いできるようになってから言うんだな。な、羽田妹」

「結月と一緒にされるのは心外だわ」

「み、美月ぃ……」

 がっくり項垂れる私をよしよしと慰めてくれる聖歌。やっぱり聖歌は天使そのものだよぉ……。

「飛翔、あまりいじめない」

 ぽんと肩を小突いたのは、クラスメイトの日比野陽介。大型犬とその飼い主、みたいな関係性に見える二人は、小学校の頃から仲が良い。

 そして──

「よ、陽介くん。おはようっ」

「おはよう聖歌ちゃん」

 可愛らしく上ずった声の聖歌。少し頬が紅くなって、緊張しているように見える。

 何を隠そう、陽介は聖歌の想い人! 両想いのはずなんだけど、外野がとやかく言うのは無粋だと美月に言われ、私はすっかり見守り隊の一人だ。

 あわあわする小動物をほのぼのと眺めていると、飛翔が「そうそう」と口を開いた。

「智也に聞いたんだけど、クラス全員参加ってのが必須なんだってさ」

「え、本当?」

「ほんとほんと。だから頼む、参加だけでも!」

 この通り!と言わんばかりに掌を擦り合わせる飛翔。
 ……そのお願い、私には効果抜群だ。

「し……仕方ないなぁ。参加する」

「マジで!? さんきゅー羽田姉!」

「だから! その名前で呼ばないで!」

「悪い悪い。えーと、ゆづるだっけ?」

「結月です!」

 一発ぶん殴ってやりたい衝動を何とか抑えつつ、私は胸の中に広がる温もりに密かに心を預ける。

 ……私は、飛翔のことが、異性として好き。きっかけは顔の良さだったけど、こんなやり取りだって全然嬉しいし、すっごく楽しい。
 だから、こんなに懇願してくる飛翔を、無下には出来ないよね。