『──湖山愛佳、お題違反を確認。失格』

 無慈悲な放送が遠くから聞こえてくる。それすらもうどうでもいいと、ただ呆然と立ち尽くす。

「……きっと、失格者の名前を呼んではいけないのね」

 離れた場所で体を休めていた美月は、思考を放棄したように言い捨てる。

 まとわりつくように包み込む喪失感が、全身から力を奪い、私はその場にずるりと崩れ落ちる。
 その反動で、私のポケットから、かたんと何かが落ちた。

 床に転がっていたのは一つのスマホ。見覚えのある、最近発売された機種とスマホケースの色……これは。

「飛翔の、スマホ……」

 昨年、部活動で一年生ながらもレギュラー入りして、試合で大活躍したから……ご褒美に買い替えてもらえたんだって、言ってたっけ。

 あの時の飛翔、すっごく嬉しそうだったな。私も美月を引き連れてこっそりその試合を見て、ひたむきに頑張る姿に、何度も惚れ直した。

 懐かしいよ……ほんの数週間前の思い出なのに、どうしてこんなに……愛おしいのかなぁ。

 スマホの液晶を見ると、ロックが外された状態だった。そして、お誂え向きにとでも言うように、ショートメッセージの画面が表示されていて。

 ──飛翔のお題は、『恋慕』。

「なん、で……」

 目頭が猛烈に熱を帯びる。灼けつくような痛みが喉から迸る。
 たまらず零れ落ちる雫が、ぽた、ぽたとスマホに落ちて、再び滑り落ちて、私の足にじんわりと冷たさが乗る。

 思考が追いつかない。私……私って……ねぇ、本当に、そう想ってもいいの?

 勘違いだって今は言って欲しい。どうしてこんなメッセージ……わざとらしく残しちゃうのかな。
 最後に下の名前まで呼んで……ずっと、呼んで欲しいって思ってたの、知ってたの?

 ……思わせぶりなのは、嫌だよ……。もう一度、会える確証なんて何処にもないのに。

「っふぅ……うぅ……」

 今まで堰き止められていた感情が、おかしなくらい溢れて、落ちて、消えていくことなく私を覆い隠す。

「っ……ぅぁ……」

 鬼の気配も、他に人がいる気配も、『カミサマ』からの放送も、何も無い。

 ただ、感情がぐちゃぐちゃになって、スマホを抱きしめて嗚咽を漏らす私を慰めるように、美月がゆっくりと歩み寄って来て、傍に座り、優しく頭を撫でる。

 ──静かな時間が、滔々と流れて行った。