私は胡乱ながらも顔を上げ、声のした方を見る。少し離れた、体育館の後方に、体育座りをして蹲る人影があった。

 今、残ってるのは、私と美月と……愛佳だけだ。
 ゲームの最初に裏切られて、咲を……突き落としてしまった、愛佳。

 愛佳は憔悴したように譫言を口ずさみ、私達には気づいてすらいないようだった。

「愛佳……どう、したの?」

 よろめきながら立ち上がり、私は愛佳の方へと歩みを進める。

 常に堂々とした立ち居振る舞いだった愛佳からは想像もつかないほど、弱々しい姿が顕わになる。
 ふるふると小刻みに首を振り、何かに取り憑かれたように一点を見つめていて──徐々に違和感が募っていく。

「違う……違う、突き飛ばしたのは、わざとなんかじゃ……っ」

 何を、言っているの? 突き飛ばした? わざとじゃない?
 知らない間に愛佳に一体何があったの?

 愛佳の傍に屈み、顔を覗き込む。視界には確実にいるはずなのに、愛佳の瞳に私の姿は映らない。

「ごめん、なさい……必死だったの……」

 顔色は人形のように青白く、到底『大丈夫』とは言えない様子だった。
 私がいるよ、と訴えるように、膝を抱きしめている愛佳の指先に手を伸ばす。

 けど、その直前に、愛佳は何かを思い出したように動きを止めた。

「私の、せい……なの? 私が……咲も檸檬も、私が──殺した」

 ぷつん、と何かの糸が切れる音が聞こえた気がした。

 糸の切れた操り人形のように、愛佳の全身から力が抜ける。突然だらんと垂れた腕を捉えられず、私の指は虚無をすり抜けた。

「くす……くすくすっ」